錦糸町の注目ラーメン店『錦糸町中華そばさん式』の究極の1杯をラーメン官僚が実食! そのウマさの秘密とは?

伝統と革新の双方からアプローチした珠玉のラーメンに感動

「中華そば」850円
「中華そば」850円

 まずは「中華そば」から実食。谷地店主のラーメン作りの挙動は、一切の無駄がなく鮮やか。待ち時間5分足らずで、注文の品が提供されました。

「基本軸は、懐かしさが感じられるオーソドックスな中華そば。その基本軸を守りながら、自分なりの発想も随所に散りばめて出来上がったのが、この『中華そば』です」

 ラーメンは、シンプルな形を目指せば目指すほど、小手先のごまかしが利かなくなっていく食べ物。たとえ、1杯1杯を10年にわたって地道に紡ぎ続けたとしても、“答え”にたどり着けるかどうか分からない、そんな奥深さがあります。「作り手の立場からすれば、底なし沼のようにディープな中華そばの世界だからこそ、たまらなく面白いんです」と谷地氏は笑います。

「季節や時期によって、魅力を放つ素材は変わります。その時々の素材と真摯に向き合い、最善の味わいを生み出す。『中華そば』は、そんな心構えで創っていきたいと考えています」

 そんな、谷地店主の心意気が本物であることは、『中華そば』が眼前に差し出された瞬間からひしひしと伝わってきました。一糸の乱れもなく丁寧に畳まれた麺、吸い込まれそうになるほど美しいスープの色合い、丼から立ち上る麗しい香り。どの点をとっても、作り手の魂(ソウル)が感じられるもので、箸を付けるのが惜しまれるほどです。

スッキリとしながらも力強さも併せ持つスープ
スッキリとしながらも力強さも併せ持つスープ

「中華そば」のスープは、動物系(鶏・豚)、魚介(2種類の煮干し・3種類の節)、香味野菜等の素材を使用。「とにかく、それぞれの素材から抽出されるうま味のバランスを、できる限り均等にすることを心掛けました」との谷地氏の言葉どおり、確かにスープを吟味すれば、どれかひとつの素材の存在感だけが突出することなく、複数のうま味成分が、仲睦まじく手を取り合っています。

 ひとしきりスープの味わいを確認した後、麺を勢いよくすすり上げれば、天空に向かってそそり立つ大樹のように雄々しく立ち上がるうま味の塊に、意識が持っていかれそうになります。香味野菜から沁み出すナチュラルな甘みも過不足なく、実に好印象。

 とりわけ感銘を受けたのは、魚介の落ち着いた風味を支える動物系素材の土台の確かさ。鶏と豚の重厚なコクが、スープ嚥下後に生まれる心地良い余韻として機能。次のひと口へとつなげるトリガーとしての役割を全うしています。

スープとの相性の良さに啜る速度が増していく
スープとの相性の良さに啜る速度が増していく

 このスープに合わせる麺は、切り刃20番の名門『菅野製麺所』の中細ストレート。サクリと歯切れのよい食感が、絶え間なく快楽中枢を優しく刺激。あまりにも快適な食べ心地に、気付くと丼が空っぽになってしまっていました。