ラーメン官僚も絶賛する北綾瀬の新店『Made in Tokyoらーめん松』のカツオが香る至極の一杯とは?

動物系と魚介系の合わせ方が秀逸! 唸るほど美味いラーメンとは?

券売機。写真付きなのでオーダーしやすいのが◎
券売機。写真付きなのでオーダーしやすいのが◎

 入店すると、入口のすぐ右手に券売機が鎮座。現在、『松』が提供するレギュラー麺メニューは、「らーめん鰹(かつお)」、「らーめん醤油」、「らーめん塩」、「つけめん鰹」、「らーめん酸辣」の5種類。

 メニューごとに「味玉入り」や「肉増し」のバリエーションを用意し、食べ手の幅広いニーズに応えています。「鰹」のスープはラーメン、つけ麺ともに「鰹豚骨醤油」なので、「醤油」を合わせて、醤油ベースのラーメンは3種類提供されていることになりますね。

 券売機の最上段にボタンが設置された「らーめん鰹」が、フラッグシップメニュー。最初にどの1杯を選ぶべきかと問われれば、私はこのメニューを薦めます。もちろん私も、迷うことなく同品をオーダーしました。

力強さと優しさ両方を併せ持つ至極の「らーめん鰹」

「らーめん鰹」850円
「らーめん鰹」850円

 ラーメンの作り手であると同時にラーメン好きでもある松本店主が、最も愛して止まないのが「豚骨魚介ラーメン」。それを自分なりにアレンジして創り上げたのが、「らーめん鰹」というわけです。この店を開業する動機の一つとして「自分が食べたいラーメンを作る店を出す」という想いがあったそうですが、まさにそれを体現した1杯です。

 眼前に丼が供された瞬間から、ガツンと立ち上がる鰹の芳香は、華やかさと重厚さとが両立。スープの表層に浮遊する不定形な「泡」が、スープ濃度の高さを雄弁に物語ります。

 色彩的な訴求力も群を抜いています。絶妙な塩梅の濁りが入り、褐色がかったスープは、口をつける前から味の良さが確信できるほどのオーラを放ち、食べ手を大いに魅了します。

レンゲでスープをすくうと、鰹の香りがより強さを増す
レンゲでスープをすくうと、鰹の香りがより強さを増す

「スープを採る魚介素材は、鰹オンリー。この点にはこだわり抜きました。自分らしい豚骨魚介ラーメンとはどんなものか? その課題と向き合い、自分なりに出した結論が、鰹だけで美味しい1杯を作ることだったんです」と松本店主。

 通常、豚骨魚介スープは鰹のみならず、煮干し、鯖節、宗田節など複数の素材のうま味を掛け算するのが一般的ですが、「らーめん鰹」に用いられている魚介は、鰹節と鰹油のみです。

15時間かけて炊き上げた豚骨スープ
15時間かけて炊き上げた豚骨スープ

 店主の発言を裏付けるかのごとく、スープの作り込みはこの上なく精緻。聞けば、豚の背骨・豚肉・鶏ガラ・鶏肉・香味野菜のうま味を、雑味が出ないよう慎重に抽出したスープに、15時間かけて炊き上げた豚骨スープを合わせ、使用する日の朝、さらに鰹節を加えるとのこと。

 鶏、豚等から出汁を採った動物系スープと、魚介から出汁を採った魚介スープを、提供する直前に丼で合わせる「Wスープ」の手法。この手法を用いたラーメンを出す店は、今ではさほど珍しくありませんが、2種類の動物系スープを合わせるお店は稀です。

「モミジや豚足を使えば、ゼラチン質を抽出することができます。このゼラチン質を活用すれば、比較的簡単にガツン度の高いスープができますが、それはしたくなかった。私が目指すのは、ゼラチン質や脂に頼らない濃密な味わいなんです」と松本店主。

 動物系と動物系とをクロスさせる発想は、こうした店主の思いや試行錯誤の結果、生まれたもの。松本店主の思考の柔軟性に、ただ感服するしか術がありませんでした。

店内には、ラーメンに使われている素材が飾られている
店内には、ラーメンに使われている素材が飾られている

 こうして完成した出汁に、“Made in Tokyo”の屋号が示すとおり、都内・あきる野市の『近藤醸造』謹製の『キッコーゴ醤油』等から作ったカエシを合わせたのが、「らーめん鰹」のスープ。

 味蕾に触れた瞬間、動物系素材のコクと鰹のキレとが激しくせめぎ合い、甘辛いカエシが両者の持ち味をさらに増幅させる。まさに、会心の出来映えです。小難しさをできる限り排除し、主張したいポイントを絞り込む。小気味良いほど堂々と前面へと押し出された鰹の力強さが、味に対する店主の信念の強さを代弁しているような気がして、比類なき安心感を抱かされました。

「このお店で、しっかりとモノを創り出せる人になりたい」。随所からそんな店主の意志が垣間見える、作り手の顔が見えるスープ。豚骨魚介スープの今後の在り方を指し示しているように感じました。

左が「らーめん塩」の細麺。右が「らーめん鰹」で使われている太麺
左が「らーめん塩」の細麺。右が「らーめん鰹」で使われている太麺

 なお、このスープに合わせる麺は、都内の名門製麺所『三河屋製麺』製の太麺。ゆくゆくは、自家製麺にチャレンジしたいそうですが、現状、松本店主が手掛けるスープと、最も相性が良いのがこの麺なのだそうです。

 確かに、モッチリとした食感とすすり心地の確かさを兼ね備え、豊潤なスープを過不足なく持ち上げ、口元へと運び込んでくれる麺です。むやみに出しゃばらず、スープの邪魔をしない慎ましやかさも、特筆に値します。

名店の味を継承したこだわりの「らーめん塩」

「らーめん塩」750円
「らーめん塩」750円

「らーめん鰹」があまりに好印象だったので、引き続き、「らーめん塩」を連食することに。

「こちらは、飯田橋の名店『支那そばびぜん亭』や、修業元の『中華そばきび』の流れを汲んだ、オーセンティックな東京の中華そばを意識しながらつくりました」と松本氏。

 塩ダレに醤油を加え、ゴマ油の風味を添えるなど、要所要所に店主ならではのギミックが施されながらも、出来上がりは、まさに“古き良き昭和情緒漂う、下町の中華そば”といった様相です。

モチモチの食感がクセになる細麺。「塩と醤油の2品は、この味を後世にまで残したいと思えるような仕上がりを目指しました」と松本店主
モチモチの食感がクセになる細麺。「塩と醤油の2品は、この味を後世にまで残したいと思えるような仕上がりを目指しました」と松本店主

 もちろん、麺もTPOに合わせて、「らーめん鰹」とは形状がまったく異なる細麺を採用。滑るように口元へと吸い込まれていく軽快な啜り心地が、最大の持ち味です。

 無我夢中になってラーメンと対峙しているうちに、連食2杯目にもかかわらず、いつの間にか丼が空っぽに。店主の言葉に一切の誇張なし。お世辞抜きで、子や孫の代にまで引き継いでもらいたいと願わずにはいられない優良杯でした。

松本 光政氏のプロフィール

・『らーめん弁慶 浅草本店』(浅草)との出逢いをキッカケに、20歳頃からラーメンの食べ歩きを開始。
・2003年12月に開業した『麺屋武蔵武骨』(御徒町)に通い始めてから、ラーメンの奥深さに魅了され、さらに食べ歩きを加速化。『吉左右』(木場)、『秋葉原ラーメンわいず』(末広町)など、多くのラーメン店へと足を運ぶ。
・大学卒業後、都内の人気店『凪』(新宿)に入社し、1年半修業。2009年に『中華そば きび』(明大前)に入り、本店の店長、イベントへの出店など、場数を重ね、2013年に『きび』の系列店『醤油らーめんきび太郎』(浅草)の店長に就任。店舗の運営全般を任される。
・2017年夏、「自分が作りたいラーメンを手掛けたい」と『きび』を退社し、独立店開業のための資金集めを開始。2022年4月、長年の夢だった自店『らーめん松』を開業。

●SHOP INFO

Made in Tokyoらーめん松外観

店名:Made in Tokyoらーめん松

住:東京都足立区神明南2-7-28
TEL:非公開
営:月曜11:00~15:00、火~日曜11:00~21:00
休:不定休 ※Twitterにて要確認

●著者プロフィール

田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。