“仙人”がホッピーを供する飲兵衛の桃源郷『ホッピー仙人』(横浜・野毛)に行ってきた!【吉田類が名付け親・吉田マッスグの酒場回想記】

仙人が仙人たる所以。ここでしか味わえないホッピーの旨さの秘密とは?

客が一杯目を注文したら全員と乾杯。仙人の温かな人柄も多くのファンを惹きつける理由
客が一杯目を注文したら全員と乾杯。仙人の温かな人柄も多くのファンを惹きつける理由

 “仙人”こと、店主の熊切憲司さんは、20年ほど前にホッピーの専門バーを開き、これまでに数十万杯以上のホッピーを注いできた、まさにホッピーの仙人のような方です。

 では、その仙人が注ぐホッピーの魅力とは何か。冷蔵庫でしっかりと冷やしたグラスに、焼酎を注ぎ、ホッピーを注ぐ。たったそれだけなのに、明らかにここのホッピーは、他とは味わいが違います。ホッピー自体が持つふくよかな甘みが感じられて、焼酎のアルコール感も程よいバランスでホッピーに溶け込み、なんといいますか、味が一体化しているのです。理由はどこにあるのでしょうか。

 理由のひとつは焼酎。『ホッピー仙人』で使っている焼酎は、大衆酒場の定番キンミヤ焼酎。しかし、ここでは20度と25度をあらかじめ混ぜて、寝かせています。こうすることで焼酎がよく馴染み、他にはない、絶妙なアルコールのバランス感でホッピーに溶け合うのです。

トルネード注ぎ。右手で持つ手首回し返しつつ、グラスを持つ手は逆に回し対流をおこす
トルネード注ぎ。右手で持つ手首回し返しつつ、グラスを持つ手は逆に回し対流をおこす

 次に仙人の“技”があります。それが、秘技「トルネード注ぎ」。焼酎を入れたグラスにホッピーを注ぐ際、ホッピーの瓶を回すようにして注ぎ入れることで、グラス内でホッピーが対流を起こす。いわゆるバーテンダーがマドラーを使って混ぜ合わせる“ビルド”を、この“注ぎ”の技で完結させてしまうのです。すると、ホッピーを注ぎ入れるだけでは表現できない、焼酎とホッピーの一体感が生まれるのです。

 簡単にいえば、これが『ホッピー仙人』で供されるホッピーの旨さの理由。理屈では理解できていても素人では真似しようにも真似できない技と味。ホッピーを何十万杯と注いできた仙人だからこそたどり着ける味なのです。

 話を戻すと、『ホッピー仙人』を三密の代表格としたのは、そんなホッピーを求め、客が引きも切らずに押しかけるから。カウンターに並ぶ8つの椅子はあってないようなもの。席が埋まれば、席の後ろへと入れ替わり立ち替わり、立ち飲み客がやってき店内をホッピー党で埋め尽くす。まさに密集・密接。(現在の定員は8名で営業中)

 客がホッピーを注文したら、仙人と皆が乾杯をするルールも、客同士の距離感を縮め、密をより濃く所以。そして、常連客も一見客も分け隔てなくもてなす仙人の度量の大きさ。ホッピーの仙人がいる店は、まさに飲兵衛の桃源郷といえるのかもしれません。

●SHOP INFO

店名:ホッピー仙人

住:神奈川県横浜市中区宮川町1-1-214 都橋商店街 2F
営:19:00~22:00
休:日曜、その他不定休あり

●著者プロフィール

吉田マッスグ
食楽本誌副編集長を務め、日々全国のトップレストラン、生産者などを取材する傍ら、酒場めぐりをライフワークにする。『吉田類の酒場放浪記』(BS-TBS)の番組本などをはじめ、これまでに吉田類氏とともに全国の多くの酒場を巡ってきた。吉田マッスグは、師と仰ぐ吉田類氏が名付け親。