ラーメン官僚が激推し! 新橋『麺屋 周郷』の「つけ麺」が旨すぎる

和食の趣を感じさせる重厚な「つけ麺」を実食!

表札の隣には、小型券売機が鎮座
表札の隣には、小型券売機が鎮座

 提供するのは、現時点(2021年8月現在)で「つけ麺」とそのバリエーションのみという潔さ。店主である周郷寿克氏にその理由を尋ねてみると、以下のような答えが返ってきました。

「小岩時代は、むしろ今とは逆で、汁そば(醤油、塩、味噌)、つけ麺、餃子など、多種多様な商品を幅広く提供していました。もちろん、1つひとつの商品を、心を込めて丁寧に創っていたつもりですが、全ての商品に100%の力を注ぎ込めていたかと問われれば、自信がありません。なので『周郷』では、メニューをつけ麺のみに絞り込み、メンマの1本、海苔の1枚にまでこだわり抜きたかったんです」(周郷さん・以下同)

 店内を見やると、扉を隔てて店主の姿がチラリ。扉越しからでも伝わってくる緊張感に、暖簾をくぐる私の身も引き締まります。券売機の左上のボタンをプッシュし、『つけ麺』の食券を購入。

木を基調とした、和を感じさせる店内
木を基調とした、和を感じさせる店内

 おもむろに扉を開けると、眼の前にはカウンター席が広がります。席数は6。移転前の『寿(カウンター15席)』よりも手狭ですが、整理整頓がしっかりと行き届き、居心地は決して悪くありません。周郷店主に食券を手渡してから、数分後。長過ぎず短過ぎず。まさに絶妙なタイミングで、注文の品が供されます。

 和食業界の修業歴が相対的に長く、料理についての考え方も日本食のそれがベースとなっているという周郷店主。そんな店主のラーメン観は、提供される「つけ麺」のビジュアルにも、明確に反映されています。

「特製つけ麺」1200円
「特製つけ麺」1200円

 別皿に盛り付けられているのは、3種類のチャーシュー(豚ロース・豚バラ・鶏むね肉)とメンマ。盛り付け方にも、そこはかとなく日本食に通ずる“雅”が感じられます。

 ひと目見た瞬間、各種素材のうま味が凝縮されていることがわかるスープ、適量の水分を蓄え艶やかに輝く黄金色の麺など、つけ麺におけるW主役の姿形は、もちろん一点の不安要素もなし。ラーメンの実食経験が一定以上ある方であれば、箸に手を付ける前から「この1杯は間違いない」ことが判るはずです。

濃度の高いスープ。立ち上る魚介の香りがたまらない!
濃度の高いスープ。立ち上る魚介の香りがたまらない!

 スープは、店主が「数あるパーツの中でも特にこだわって創った」という、試行錯誤のたまもの。「有名店に通っては自宅で作り、失敗してはまた店に通い、改善を試みる。今の味に行き着くまで、ひたすらこの作業を地道に繰り返しました」。

 その過程の中で、今使っている圧力寸胴と出逢い、何度も試作を重ねて完成させたスープは、全国各地から選び抜いた豚と鶏、5種類の魚介素材のうま味が、一滴一滴に過不足なく凝縮された絶品。

調理場の中心に鎮座する圧力寸胴
調理場の中心に鎮座する圧力寸胴

「圧力寸胴を駆使し、素材を超高圧(2.6気圧)・超高温(136℃)で一気に炊き上げることによって、小岩時代に抱えていた『スープが安定しない』という課題を克服することができました」。

 が、それだけではありません。店主は「香りが抜けがちになる」という圧力寸胴が抱える問題点にもしっかりと向き合い、鶏油や魚介系の香りを圧力寸胴を使わずに別に採り、後でスープに加えることで解決。

 手間ひまを惜しまず、膨大な時間を掛けて創り上げたスープは、小岩時代からの持ち味であったカエシの風味の質の良さに、素材の等身大の味わいと香りがプラスオンされた会心の出来映え。一度口にしたら最後、レンゲを持つ手を止めることは至難の業でしょう。

麺とスープが絶妙に絡むことで旨さが何十倍にも引き上がる
麺とスープが絶妙に絡むことで旨さが何十倍にも引き上がる

 このスープと合わせるのは、名門『菅野製麺所』と共同で開発した、福岡県産小麦100%の太ストレート麺。「複数の製麺所にサンプルを作っていただき、うちのスープに最も良く合う麺はどれなのかをじっくりと見極めました」。箸で摘まみ上げた瞬間から茫洋と立ち上る小麦の芳香。

 自己を明確に主張しながらも、スープの持ち味はしっかりと引き立てる「このスープにして、この麺あり」の傑作です。

店主の思いが込まれたトッピング各種
店主の思いが込まれたトッピング各種

「家族がもう食べたくないと音を上げるほど試作を重ねました。迷惑をかけたなと反省しています」。そう言って、店主が苦笑するほどブラッシュアップを重ねた3種類のチャーシューは、いずれも用いる香草を変え、まったく異なる味わいを演出。豚ロースと豚バラは、提供前に炙りを加えることで、うま味を極大化。単品の「つまみ」として提供されても、食事として十分機能するほどの逸品に仕上がっています。
 
「より良いものとなるよう毎日味を吟味し、改善点が見つかれば、ためらうことなく改善していきたいと考えています。味の追求にゴールはありませんから」。

 オープンして日が浅いにもかかわらず、すでにその評判を聞きつけ訪れる人が絶えない『麺屋 周郷』。遠からぬ内に、新橋を代表する人気店のひとつに躍り出ることに、間違いはないでしょう。

店主(周郷寿克氏)のプロフィール

・ラーメン職人となったきっかけは、和食職人時代に、ラーメン業界に参入した先輩から、ラーメンの魅力を教わったことによるもの。
・2013年10月、京成小岩の地に、自分の名の一文字を冠した『麺屋 寿』を開業。7年かけて同エリアを代表する人気店に育て上げる。
・2020年4月、小岩の店を畳み、1年余りの空白期間を経て、2021年6月、新橋の地に自らの名字を冠した『麺屋周郷』をオープン。
・自らの経験を活かし、ラーメンに日本食のエッセンスを導入しようと試みる。ラーメンの中でも特に「つけ麺」は、日本食のコース料理の発想が採り入れられるのではないかと考え、『周郷』では、空白の1年間を活用して磨きをかけたつけ麺のみにメニューを絞り込んで提供している。

●SHOP INFO

麺屋 周郷 (めんやすごう)外観

店名:麺屋 周郷 (めんやすごう)

住:東京都港区新橋4-19-1
TEL:080-7996-0227
営:11:00~15:00、17:00~20:00、日曜11:00~15:00
休:月曜
https://www.mensugo.com/

●著者プロフィール

田中一明
「フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。