旨すぎる! タベアルキスト・マッキー牧元さんが絶賛する至極のウニとバターとは?

ウニがむき身で販売されている理由。その答えが北三陸にあった!

洋野町の種市漁港にある『北三陸ファクトリー』。“味わう”だけではなく、食べることで、食材を生み出す北三陸の自然や季節感、生産現場の空気感までを体感し、生産者の哲学にふれあい、共鳴できることをモットーにしている
洋野町の種市漁港にある『北三陸ファクトリー』。その一角に実店舗がある『北三陸エクスペリエンス』は、“味わう”だけではなく、食材を生み出す北三陸の自然や季節感、生産現場の空気感までを体感し、生産者の哲学にふれあい、共鳴できることをモットーにしている

 ウニはなぜ、木の箱などに並べられたむき身で流通されるのだろうか? 高級感を高めるためか。身が脆弱のためか。見栄えのよさか。あるいはそのすべてか。以前より、そんな疑問を抱いていた。その秘密は、北三陸にあった。

 北三陸とは、岩手県宮古から青森県八戸までの洋野町、久慈市、野田村、普代村などの三陸沿岸北部地域をいう。その洋野町に、『洋野うに牧場』が存在し、『北三陸ファクトリー』の拠点がある。

 高台から『うに牧場』を見せてもらう。大きな空の下、海岸線に沿った海中の固い岩盤に、数十本の溝が整然と並んでいる。古代の海底遺跡かと思う光景である。その一本一本の溝で、ウニを育てているのだという。

高品質な天然ウニを、安定的に出荷させることができる画期的な畜養方法
高品質な天然ウニを、安定的に出荷させることができる画期的な畜養方法

 ウニは悪食である。英語ではsea urchinといって、直訳すれば「海のハリネズミ」となるが、「海の悪ガキ」という意味もある。それは、なんでも食いつくすからである。おちょぼ口ながら、ダイヤモンドより硬い歯で、貝殻や木片、プラスティック、ガラスまで、貪欲に食べてしまう。

 そのため自然の生態系にいるウニは、個体差がある。飲食店で、ウニを殻ごと出す店が少ないのはそのせいである。開けてみないと、美味しいウニかどうかはわからない。味と色合い、身入りなどがマチマチで、人によれば、6割は使えないウニだという。つまりウニが高級なのは、歩留まりが悪いからであり、木の箱などにむき身が並べられて流通しているのは、質の高いウニの身だけを取り出して出荷ているからなのであった。

稚ウニから育て上げ、大きくなったところで外洋に面した沖へと放つ
稚ウニから育て上げ、大きくなったところで外洋に面した沖へと放つ

 洋野町の先人たちは、それをなんとか変え、身入りが安定した質の高いウニを育てるべく、沿岸の岩盤に溝を掘り、育て上げる仕組みを作ったのである。つまり溝の中には、ワカメと昆布しか生育していない。地上の水槽にて稚ウニをふ化させ、1年かけて1cm程度まで育てた後に、外洋に面した沖に放つ。沖合で2年間育ったウニを収穫し、海辺の溝に戻してさらに1年間、ワカメと昆布だけを食べさせて育てる。

ここから外洋に面した沖で2年間ほど育て、大きく成長させていく
ここから外洋に面した沖で2年間ほど育て、大きく成長させていく

 稚ウニから育て最後の1年を、ウニが美味しくなる昆布とワカメだけを食べさせて出荷する。しかも、沿岸まで迫る森からの豊富なミネラルを取り込んだ海藻類だけを食べて育つ。そのため殻ごと出荷してもハズレがない。

 こうして『洋野うに牧場』のウニは、ウニのウニたる本来の力を発揮して、昇華するのである。このウニを畜養する沿岸のポイントを「うに牧場」と名付けたのは、現社長の下苧坪(したうつぼ)之典さんである。下苧坪さんは、このウニから様々な加工品も考案されている。

「洋野うに牧場の四年うに/塩水うに100g」2980円。4月から7月末くらいまでが北三陸のウニのシーズンとなる
「洋野うに牧場の四年うに/塩水うに100g」2980円。4月から7月末くらいまでが北三陸のウニのシーズンとなる

 まずはうにを殻からすくい、そのまま食べてみた。なんときれいな味わいだろう。澄んだ、品のある甘みが舌を抱きかかえ、うっとりと目を閉じさせる。酢飯にのせれば、ご飯の熱で甘い香りを膨らませ、米の甘みと響き合いながら溶けていく。たまらない。

 さらにウニ比率が7割という、「ウニバター」もいただいた。バゲットにたっぷりのせて、パクリといく。これは危険である。純真なウニの甘みとバターのコクが、くんずほぐれつ響き合い、官能をくすぐってくる。一口で鼻息が荒くなる。

 次は、またたっぷり一面にのせてから、バケットをかぶせてみた。「ウニバターサンド」である。さらに危険度が増した。これはケチケチせずに、たっぷり使うというのが正しいだろう。

「UNI&岩手産バター SPREAD」3480円。旬のキタムラサキウニと岩手産発酵バターを使用している
「UNI&岩手産バター SPREAD」3480円。旬のキタムラサキウニと岩手産発酵バターを使用している

 次に生ウニを缶に詰めて蒸し上げた「蒸しウニ」もいただいた。弱火から強火へと、ゆっくり蒸し上げたウニだという。

 口に滑り込ませると、濃縮したウニの甘みが広がるが、すぐにカニ味噌のような味が流れてきた。ウニの甘みとカニ味噌に似たコクが抱き合って、舌を舐め回すのだからたまらない。即座にご飯が、酒が恋しくなる。煮切り酒と醤油で煮切りを作り、ご飯の上にちょいちょいと垂らすと、もういけない。際限なくご飯がいけてしまう。

「洋野うに牧場の四年うに/蒸し」(キタムラサキウニ)5184円。生うにを缶に詰め、低温から徐々に温度をあげ蒸していくことで旨味を凝縮
「洋野うに牧場の四年うに/蒸し」(キタムラサキウニ)5184円。生うにを缶に詰め、低温から徐々に温度をあげ蒸していくことで旨味を凝縮

 次に燗酒を試してみた。ウニをひと舐めにしたら、すかさず燗酒をちびりと呑む。ああ途端にウニは、恥じらうかのように、香りを色っぽく変化させるではありませんか。

 北三陸ファクトリーのウニは、ウニを美味しくしたいという下苧坪さんたちの熱情が詰まっている。だからウニという生物の純がある。雑味や味の汚れがなく、我々に海という豊穣を伝えてくるのだ。