フラワーアーティストは一輪挿しを酒器にするとかしないとか? 【酒器も肴のうち】

「無意識のうちに一輪挿しを探していたりするんです」

「ふらりと立ち寄った骨董屋さんで見つけたものが多いです。どこのものなのか、いつのものなのか、そういうストーリーもアンティークやビンテージの味わいだと思ってはいるんですが、実はあまり聞き込まないかも(笑)。それよりも、一輪挿しをイメージして物色していますね」

 一輪挿し? 無意識のうちに仕事脳、それに関連する創作脳が働いてしまうのだろうか。とはいえ、ここにあるものは、ショットグラスやリキュールグラスと思しきものばかり。まさかこれらも一輪挿しのイメージで買い求めたものなのか。

「そうですよ。グラスとしての用途はもちろんですが、それよりもお花が映えるものや茎まできれいに見えるもの、花一輪が美しく見えるかどうか、そんなことばかり考えています。仕事バカですね」

 いえいえ、そんなことは…。日常的に花のある暮らしには憧れる。カフェのテーブルにちょこんと置いてある小さな花に癒されることもある。一輪挿し、いいじゃないですか。でも、そのイメージと酒器が結びつかないが、見立ての発想と一緒だろうか。

「日本酒やリキュールを飲むのにもよさそう! とは思います。ただ、それよりも先に花入れ、花器を連想してしまう。日本酒に限らず、お酒は透明感のあるグラスで飲むのが好きですね。クリアなものの方がお花もお酒もキレイに見える気がします。ちなみに、この中でも一番のお気に入りは目盛り付きのグラスです」

 目盛り付きというところもすでにユニークだが、取っ手付き! これ、メジャーカップじゃないですか。

「面白いですよね。メジャーカップなのかもしれませんが、あまり見かけない形で、そこも気に入っています。お店のご主人もとくに詳しい説明はしていなかった気がします(笑)」

 マミさんが見せてくれた小さなグラスはそれぞれ個性的で、小ぶりながらも厚底で重量感のあるもの、軽くコツンと当てただけで割れてしまいそうな薄いオブラートで包まれたようなものなど、実際手に取ってみるといちいち楽しい。クリアなグラスに混じって、脚付の色つきグラスが一個ある。これだけちょっと雰囲気が違いますね。

「実家にあったものを持ってきて結構経ちますが、たぶん、父が愛用していたものだと思うんです。父はウイスキー党で、父の晩酌風景を子どもながらにぼんやり記憶していて、その影響なのかウイスキーが好きなんですよね。この脚付グラスは強いお酒を飲むときに使っていた気がします。ちょっと自信ないですけど。あ、日本酒の話の方がよかったですか?」

 とんでもない。すでにお父さまが愛用していた酒器を出されたところで、しみじみ飲めそうな気になっている筆者。肴にしようなんて軽々しく言えないけれど。そうか、そうやって酒器も受け継がれていくのねなど、しみじみしていると、マミさんが話を続けてくれた。

「最近、女子会でも日本酒を飲むことが多いんですよ。私はあまり詳しくないですが、ヘルスコンサルティングをしている友人がすすめてくれるお酒はどれも美味しい。正直、銘柄まで覚えていなくて(笑)。純米酒が多い気がします。適当ですいません」

 こちらのコラムの企画を気遣って日本酒の話に切り替えてくれたというのに、家族ネタにめっぽう弱い筆者。しみじみモードから抜け出せずあたふたしていると、メジャーカップを(きっと、そこに注ぐお酒ではなく一輪の花を思いながら)愛おしそうに持つマミさんが目の前で微笑んでいた。とりあえず、今夜は純米。花一輪あれば、なおよし。

フラワーアーティストは一輪挿しを酒器にするとかしないとか? 【酒器も肴のうち】
【酒器FILE 005】
愛用者:マミ山本(「anela」フラワーアーティスト)
* 口径35mm *高さ90mm *容量60cc *重量132g

●DATA

フラワーアーティストは一輪挿しを酒器にするとかしないとか? 【酒器も肴のうち】

「anela(アネラ)」
マミ山本が主宰するアトリエ&フラワースクール。ウエディングブーケや会場装花などのブライダルフラワー制作をはじめ、ショップ&イベント会場のディスプレイ、雑誌等のアレンジメント&スタイリング提案など、華やかなシーンに携わる。年間400件ものウエディングを手がけるアネラスタイルの花を学べるアネラフラワースクールでは、初心者から上級者、ショップ開業コースまで多彩なコースを開講。

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。