浦安の海の幸を満喫できる「天悟」の天ぷら。【房総food記】

“蒸す×揚げる”の職人技に感涙!“夢の国”だけじゃない浦安も知って。

「天悟」の天ぷらの特徴は、半ナマでジューシーな食感と、通常よりも厚切りの新鮮なタネ。「食材の風味を味わってほしい」とあえて厚切りにしたタネは、火入れ加減がより難しいはずですが、個々の旨みを引き出す絶妙の“レア感”を実現しています。
「天ぷらは、“蒸す”と“揚げる”の同時工程の日本料理。食材の水分を閉じ込めて中身をふわっと蒸しながら、外側だけをカラッと揚げるのが腕の見せ所なんです」

 独立前は、銀座の有名天ぷら専門店「天一」で20年間修業を重ねた宇田川さん。天ぷらの世界は、揚げ場(カウンター)に立てるまでに10年、揚げ場の仕事を覚えるまでに5年と、一人前の天ぷら職人になるまでには長い年月がかかりますが、修業時代は休日でも魚をさばいて天ぷらにし、友人たちに振舞って研究を重ねていたとか。「今も、珍しい魚を見るとおろしたくなっちゃうんですよね」

 その真骨頂が、「ハゼ」の天ぷら。釣れた時にしか提供していないため、食べられた人は実にラッキーな逸品です。こちらでは体長18cmほどの大ぶりのものだけを使用し、注文を受けてからさばきます。ゆえに、その新鮮な身は噛むよりも先にとけてしまい、思わず声を漏らしてしまったほど。これを目当てに遠方から通う人がいるというのも納得です。

 さらに、三番瀬で採れた「イシダイ」、浦安の漁師たちの間でよく食べられていたという「ボサエビ」などの地元の旬魚から、他店ではあまり見かけない「カツオ」の天ぷらまで、じっくり堪能。最後は、お店オリジナルの「冷やし天茶漬け」で締めました。

 味もさることながら、嬉しいのがその気兼ねのなさ。カウンターで一品ずつ供される天ぷら専門店と聞くとつい身構えてしまいますが、「うちは難しい話は一切なし。お客さんにも“癒し系天ぷら”っていわれます」とニッコリ。今更聞けないと思いがちな天ぷらの基礎知識も気前よく教えてくれるため、一人客が多いのも「天悟」の特徴です。

 また、天ぷら以外に一品料理も充実し、一度行っただけでは味わいきれない豊富なメニューも魅力の一つ。近くには某有名テーマパークがありますが、「うちのほうは、“食べる夢の国”(笑)。こんな浦安もあるってこと、知ってほしいですね」
 浦安がこんなに味わい豊かな魚の宝庫だったなんて。ここはぜひ“年パス”気分で、サービス精神あふれる職人技を堪能しに、何度も通いたいものです。

「三番瀬」を釣って揚げる天ぷら職人を訪ねて。【房総food記】
ハゼの天ぷら(一尾600円)。身はふわふわで鱚(きす)に似ており、綿飴のように口に入れた途端とけてしまう。身は天ぷらに、骨は骨せんべいにしてくれる(写真左)。
「三番瀬」を釣って揚げる天ぷら職人を訪ねて。【房総food記】
こちらも三番瀬で採れたクロダイ(450円)。魚の身自体に旨味とコクがあるため、何もつけずともおいしい。身はふっくらと仕上げ、皮はパリパリに揚げて香ばしさを出す。
「三番瀬」を釣って揚げる天ぷら職人を訪ねて。【房総food記】
火を通したロゼ色の身が美しいカツオの天ぷら(450円)。毎年初鰹の時期だけ提供している。刺身用を用いるため、当然ながら鮮度は抜群。「赤身魚の天ぷらはやらないところが多いけど、実は美味しいんですよ。天ぷらにすると血合いの渋みが消えて、食べやすくなります」。
「三番瀬」を釣って揚げる天ぷら職人を訪ねて。【房総food記】
コース料理(2,300~5,000円)の締めとして、追加料金300円で食べられる天茶漬け。暑い時期はオリジナルの冷やし天茶漬けもおすすめだ。この日のかき揚げは、ボサエビ・春菊・ひじき・鹿児島県枕崎産の鰹節。出汁は、枕崎産の鰹節・酒・塩のみで味付けしたシンプルで奥深い味。ごくごく飲める!
「三番瀬」を釣って揚げる天ぷら職人を訪ねて。【房総food記】
浦安では「イシガニ」と呼ばれる小ぶりのカニを、茹でて一品料理として提供(一匹400~500円)。「もっと大きくなりますが、夏の小ぶりな時期のほうが身がしまっていておいしいんです」。膨らんでいる甲羅の中身と、ハサミの中に身が詰まっている。昔の浦安や葛西では、このカニを味噌汁にして食べるのが日常だったとか。
「三番瀬」を釣って揚げる天ぷら職人を訪ねて。【房総food記】
一人で気軽に訪れる女性客も多い「天悟」は、東京メトロ東西線「浦安駅」の南口から徒歩5分ほど。天丼弁当などのテイクアウト(要事前予約)の他、お店特製の揚げ玉(一袋100円税別)や枕崎産鰹節の販売もあり、それだけを買いに来店することも可能だ。

●SHOP INFO

店名:天悟(てんさと)

住:千葉県浦安市北栄1-2-37 1F
TEL:047-314-5190
営:12:00~14:00(L.O.13:30)
  土日祝12:00~15:00(L.O.14:30)
  18:00~22:00(通常コースメニュー〜L.O.20:00、単品メニュー20:00〜L.O.21:00)
休:火
カード使用不可、駐車場:なし(近隣にコインパーキングあり)
東京メトロ東西線「浦安駅」南口より徒歩5分
※すべて税別
※平日3名以上、および土日祝は要予約。
※旬魚の入荷情報などはお店のFacebookにて。8月は三番瀬でとれた「クロダイ」や「スズキ」などがメイン。「ハゼ」も釣れれば秋頃まで提供予定。

●著者プロフィール

白井いち恵

千葉市育ち&在住の編集者・ライター。『千葉の本』『千葉の本2』(京阪神エルマガジン社)を手がけ、出身地・千葉県の知られざるおいしい&楽しいを大特集した。路線バス好きでもあり、著書に『東京バス散歩』(同上)。