おめでたい席の食前酒は十二支の金ピカ盃で【酒器も肴のうち】

金ピカ盃! これってもしかして十二支ですか?

「そうです。見てすぐにわかるものと、じっくり見ないとそれと気づかないものがありますが十二支揃っています。お祝いの席などでお客さまの干支の盃を用意してお出しすると喜ばれますね。ただ、細工の具合なのか、ちょっと飲みづらいんですけど(笑)、一口ほどの食前酒に使うだけなので、そこは楽しんでもらえているようです」

おめでたい席の食前酒は十二支の金ピカ盃で【酒器も肴のうち】

 なんとも粋な演出。ところで、お祝いの席というと……。「昇進祝いや退職祝い、還暦祝いなどのご会食ですね。あとはお食い初めや七五三のお祝いの席にも使います。もちろん大人向けにですが、明治神宮が比較的近いこともあって、その流れでご利用いただくことも多いですね」と笠牟田さん。

 この金ピカ盃、どちらで入手したものだろう。「この盃は24金メッキ製。ご縁あって、鹿児島県大根占町の旧家の蔵に眠っていた薩摩焼の壺をいただいたんですが、盃はその旧家とおつきあいのあった鹿児島の骨董屋さんから譲り受けたものです。見た瞬間に祝いごとで使おうと思いました」

 薩摩焼の壺と聞いて、笠牟田さんの様子をうかがう。薩摩焼、薩摩藩、薩摩武士……。店主の歴史好きがここでも垣間見えてくる。盃はともかく、この料理人はただの歴史オタクなのか? 「確かに歴史が好きで、骨董も好きです。ただ、突き詰めていくと、その時代の料理のルーツにたどりつく面白さがあります。古い道具や器の味わいもさることながら、時代背景と共に日本料理と器を楽しむ趣向もいいかなと思って」

おめでたい席の食前酒は十二支の金ピカ盃で【酒器も肴のうち】

 なるほど。ただの歴史好きで骨董好きなだけの料理人ではなかったようだ(当たり前です!)。「例えばこれは、軍盃と呼ばれる酒盃。日露戦争の頃のものです。料理を通じて日本文化を感じていただけたらと、こちらで食前酒を提供したりもします」。歴史の捉え方や感じ方はそれぞれだが、普段あまり扱うことのない酒器で一献というのも新鮮かもしれない。

おめでたい席の食前酒は十二支の金ピカ盃で【酒器も肴のうち】

 さらに笠牟田さんが見せてくれたのは中国茶器。きたきた、筆者の大好物、見立て遊び。「手前の茶器二つはちょうど一合ぴったり入るので、この急須に日本酒を入れて提供したりもしますよ。どこの骨董市で手に入れたものだったかな。門前仲町の富岡八幡宮にはよくでかけます。たまに休みを利用して地方の骨董市にも行きますよ。それと、靖国神社外苑参道の骨董市がなくなってしまったのはとても残念ですね」

 この料理人、やっぱり、ただの骨董好き?

おめでたい席の食前酒は十二支の金ピカ盃で【酒器も肴のうち】

蕎麦の名店や日本料理店での修行経験を生かし、蕎麦はもとより日本料理へのあくなき探求心(ときどきマニアック)を具現化させた懐石料理(昼4,500円、夜9,000円。昼夜共に税・サービス別)が堪能できる。日本酒は店主の出身である愛知県産を中心に、他県の銘酒も揃える。2017年発行の美食ガイド「ゴ・エ・ミヨ」日本版第1号に掲載された実力店。今夏から秋にかけてはオーストラリア産ペリゴール黒トリュフを贅沢に使ったトリュフ蕎麦3,900円、トリュフうな重4,600円も提供する(要予約)。

●SHOP INFO

『御料理武蔵野』

住:東京都渋谷区神宮前4-2-17 青山夏野Rビル2F
TEL:03-3497-1129
営:11:30~14:30(売り切れ終い) 18:00~21:30(最終入店)
  ※9,000円コース予約の場合は時間外の対応可
休:日曜
http://kasamuta.crayonsite.net
Facebook「表参道 武蔵野」

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。