薄い、軽い、カッコイイ! 漆器界のフライ級王者【酒器も肴のうち】

うすっっっ!かるっっっ! これ、紙コップじゃないですよね?

 手に取った瞬間、おおおおー! その軽さと薄さに驚く筆者。軽い、軽すぎる。そして薄い、薄すぎる。紙コップを持っているのとなんら変わらない感覚である。ミズメ材の漆器で美しい木目が見てとれる。それを知っても疑わしくなる不思議な感触と軽さなのである。これは、どちらで?

薄い、軽い、カッコイイ! 漆器界のフライ級王者【酒器も肴のうち】

「昨年の秋、自由が丘にあるセレクトショップで見つけました。酒器のコレクションが豊富な漆器ブランドのものです。買い物した時はこの酒器5個しか残っていなくて全部お持ち帰りしてきました。主要商品は酒器というより、やはり椀もののようですね」

 それにしても、おディーン様こと(しつこい)、ヘンリー・ディーンのグラスとは対極にある。重量系ガラスvs軽量系漆器の酒器マッチだ。異素材とは言え、ヘヴィー級とライト級、いやフライ級ほどの違いがある。レスラーだったら同じリングには上がることはない(あ、無差別級もあるのか? 団体によるのか?)。しかし、これは酒器。ヘヴィー級でもフライ級でもテーブルという名の同じリングに上がることが可能だ。酒器をレスラーに例えるとは、おおっと、また筆者の得意とする妄想。試合前の公式計量をまねて調べたところ、形状によって差はあるが最軽量で6.5gを打ち出した。紙コップがだいたい5.5g前後としても、極めて紙コップの軽さに近い漆器なのだ。

薄い、軽い、カッコイイ! 漆器界のフライ級王者【酒器も肴のうち】

「持っていただいたリアクション通り、驚くほど軽くて薄い。口当たりが薄いので唇に触れるやいなや、お酒がすーっと入ってくる印象です。漆器のぬくもりも見たまま直接的で手になじみよく、ついつい飲みすぎてしまう、そんな酒器です。なんというか、酒好きが唸りそうなフォルムもいい」

 ついつい盃を重ねてしまいそうなこちらの酒器は、石川・山中漆器ブランド「我戸幹男商店」の「TOHKA(透華)」というシリーズ。山中漆器の伝統と職人の技術によって生み出された繊細な薄さといい、透けるような美しい木目といい、まさに華のごとし。透華とは言い得て妙。無駄がなく研ぎ澄まされた美的フォルム。スタイリッシュな顔立ち。何度となく手にしているうちに、筆者も「TOHKA」の魅力にとりつかれてしまったのである。

●DATA

薄い、軽い、カッコイイ! 漆器界のフライ級王者【酒器も肴のうち】

「Tiny Pyxis(タイニーピクシス)」
「タイニーピクシス」とは古代ギリシャで小さな宝石箱の意味。ヨーロッパの雑貨や、アンティークというほど時を経ていないけれど味わいが楽しめる小物など”気持ちを豊かにしてくれるささやかなるもの”を届ける。
https://www.tinypyxis.com

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。