“持つ”というより”握る”感覚のぐい呑とは?【酒器も肴のうち】

愛用のぐい呑登場!なんともなれそめを聞いているような気分である。

 さてそろそろ、新保さん愛用の酒器を紹介せねば。「仕事を離れると、さすがに酒器がどうこういうのはないです。休みの日の晩酌でいうと、冷酒はコップときどきワイングラスですが、ぐい呑でとくに気に入って使っているのはコレ。冷やにも使いますが、燗酒には絶対コレ」

 あれは3年ほど前の神楽坂。とある酒器展で出会ったというぐい呑は、奈良で作陶する辻村塊さんの作。ぐい呑であるはずなのに、茶席の上座で扱われている茶碗のような存在感。黒釉の艶といい、力強さを感じさせる土もの特有のざらついた肌質といい、その景色は見るからに男性好み?

“持つ”というより”握る”感覚のぐい呑【第2献】酒器も肴のうち

「もっといい言い方があるといいんですけど、未完成感に惹かれました。もちろんいい意味で、です。作家さんには失礼かもしれませんが(笑)。釉薬の艶感が占めるなか、ときどきざらついた質感が残っているところや、崩れすぎていない絶妙ないびつ感がたまらないです。実際扱ってみると、自分の手にすごく収まりがいい。酒器の形状によって持ち方も違いますが、”握っている”という感覚が好きなんです」。言われてみれば酒器の形状や重みの違いで指使いが異なる。男性と女性でも違うだろうし、手にしたときの安定感も人それぞれというわけですね。

「あとは、口が厚めで当たりがいい。口が厚い器はお酒のふくよかさや甘さを感じやすく、口が薄い器はキレのよさが際立ちますが、その分、甘さは控えめになるんです。個人的な好みですがお酒はキレよりは甘さを味わいたい方なので。日本酒を扱うという仕事柄、聞かれたら酒器選びのアドバイスはします。たとえば、これは美味しいお酒だよとすすめられて、ん? そうでもないやということになるのは残念。そんなときは酒器を替えてみる。それでも、そうでもないやとなれば、概ね好みのお酒じゃないってことです」

 つまりそれは、利き酒器ですね。それにしても、日本酒と自分の好みを熟知していればこその酒器選び。さすがにその域にはたどり着けぬが、小さな酒器ひとつに趣味や嗜好、こだわりが凝縮されていて、聞けば聞くほど「やっぱり酒器って肴になる」とほくそ笑む筆者なのであった。

“持つ”というより”握る”感覚のぐい呑【第2献】酒器も肴のうち
【酒器FILE 001】
愛用者:新保雅敏(『地の酒しん』店主)
*口径50mm *高さ47mm *容量80cc *重量87g
“持つ”というより”握る”感覚のぐい呑【第2献】酒器も肴のうち
東急池上線千鳥町駅近くにある日本酒と佳肴の店。カウンターとテーブル合わせて全17席。日本酒は小さな造り手のものから、定番、季節のもの、変態系まで常時30種ほどをオンリスト。その日の入荷やおすすめ情報はFacebook「地の酒しん」で公開中。6月8日で6周年を迎えた。

●SHOP INFO

『地の酒しん』

住:東京都大田区千鳥1-18-8 第3正和コーポ103
TEL:03-6410-2992
営:17:30~24:00 ※フード23:00(L.O.)、ドリンク23:30(L.O.)
休:日曜
https://zinosakeshin.jimdo.com

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。