豆の味を見定める「カッピング」の体験に行ってみた【後編】【コーヒープレス古今東西】

コーヒー界独自の言語表現に興味津々

 セミナーの最後は、本日の講師であるバリスタの櫛浜健治さんによる豆の解説である。カッピングしたそれぞれの豆の産地・種類にはじまり、生産方法の特徴、生豆の処理の仕方など、どのようにして味わいの個性が生まれるのか、というお話をしてくれる。

 現在は、『丸山珈琲』をはじめ、豆を農園単位で購入できる店も増えつつある時代だが、それでもまだ地域ごと、種類ごとにいろんな生産者の豆を混ぜて均一化し、販売する方法が世の中では主流である。しかし風味に影響を与える作り手の工夫やこだわりの話を聞いていると、せっかく飲むなら作り手の背景が分かるものを、というムーブメントが起こってきたことは必然である、とひしひし感じる。

 コーヒーの味についての解説も、非常に興味深かった。というのも、アロマや酸味、甘さや質感を表現する言語はコーヒー界独特のもの。たとえば「グレープのような」という表現は、ブドウの味そのものがするというよりも、紫色のフルーツの風味と酸の印象があることを伝えている。質感についても「シロップのよう」「こちらはベルベット」と言われてみると、飲んでみた実感として、なるほどと納得できる。これらの表現言語は、もともとソムリエがワインの味わいを表すための言い方がルーツにあるそうで、「味覚」や「風味」という、一人ひとり感じ方が違うものに対し、どのようにして共通の評価軸を作るか、という先人らの工夫が垣間見える気がする。

ホワイトボードを使って、それぞれの豆が持つ特徴を解説してくれる櫛浜さん。お話を聞いていると「もっと知りたい!」という知的好奇心が湧いてくる。
ホワイトボードを使って、それぞれの豆が持つ特徴を解説してくれる櫛浜さん。お話を聞いていると「もっと知りたい!」という知的好奇心が湧いてくる。

 それにしても、自分が「華やかな香り」とメモしてあるところに、櫛浜さんが「フローラル」などと解説してくださると、別に答え合わせではないのだけれど「やった!」と嬉しいものだ。一方「この酸味はなんと言えばよいのか……」と思っていたところに、「ざくろのような」など、しっくりくる表現を聞くと「そう、それ!」と至極すっきり。コーヒーの知識のみならず、ボキャブラリーまで増やしていただいた充実の1時間はあっという間に過ぎた印象だ。

 今回、一緒に体験セミナーを受けた30代男性にも、カッピングに興味を持ったきっかけを聞いてみた。もともとは紅茶やハーブティを主に飲んでいたそうだが、なんと好きになった女性がコーヒー党。勧められて飲みはじめ、現在1年3ヶ月。今は毎日ペーパーかネルでドリップしており、ふだんもいろいろな豆を飲み比べてみているが、「もっとフレーバーについて理解を深めたい」と参加してみることにしたのだとか。恋とコーヒー、なんてステキな動機なのだ。

いろいろ体験させていただいた中で、好みの味と感じた豆をせっかくだから買おうか、と価格を聞いてみたところ……なんと100gで3600円!普段飲んでいる豆のゆうに3倍である。金額がすべてではないことは承知の上だが、そんな高価な豆を無料のセミナーで出し、味を体験させてくれた事実に驚き、改めて感動を覚えた。

 自宅でこれだけの豆を比較し、飲み比べることは難しいもの。プロに教わりながらのカッピング体験、一時間でますますコーヒーライフが楽しくなった。

●著者プロフィール

写真・文/木内アキ

北海道出身、東京在住。”オンナが楽しく暮らすこと”をテーマに、雑紙や書籍、ウェブなどで人・旅・暮らしにフォーカスした文章を執筆。プレスコーヒー歴7年。目標は「きちんとした自由人」。執筆活動の傍ら、夫と共に少数民族の手仕事雑貨を扱うアトリエショップ『ノマディックラフト』を運営中。
HP: http://take-root.jp/