ラーメン官僚が選ぶ2020年上半期の新人王候補『鴨出汁中華蕎麦 麺屋yoshiki』とは?

鴨を縦横無尽に駆使した、スープの一滴まで残せない名杯

「鴨出汁醤油そば」900円 ※月曜、水曜、土曜のみ提供
「鴨出汁醤油そば」900円 ※月曜、水曜、土曜のみ提供

 現在、同店が提供する麺メニューは、「鴨出汁醤油そば」「鴨出汁塩そば」「鴨白湯和えつけそば(※)」など。

 基本メニューは「鴨出汁醤油そば」と「鴨出汁塩そば」の2種類。スープをなみなみと湛えた丼に麺のみを泳がせた「かけラーメン」に、トッピングを載せた別皿を合わせて供するスタイルに徹する。そのような提供の仕方をすることに決めた理由を尋ねると「ラーメンの主役は麺とスープで、トッピングは脇役。なので、まずはW主役の競演を存分に楽しんでもらいたいんです」という答えが返ってきた。

「鴨出汁塩そば」900円 ※日曜、火曜、金曜のみ提供
「鴨出汁塩そば」900円 ※日曜、火曜、金曜のみ提供

 理由はそれだけではない。ひとつの丼にトッピングまで添える通常のスタイルを採用すると、トッピングを盛り付けている間に、麺が伸びスープの温度が下がってしまう。それだけは避けたかったのだという。「理想的な状態で麺とスープを味わってもらいたい」。ラーメンづくりに対する店主の真摯な姿勢に脱帽するほかない。

 出汁は、主役である岩手県産の鴨のみならず、香味野菜(ネギ・ニンニク・ニンジン・シイタケ・タマネギ)、昆布、煮干しを寸胴に投入し、数時間かけて丁寧に炊き上げたもの。幾種類もの素材の風味が輻輳し舌上で活き活きと躍動する、フルボディの味わい。

「醤油は、鴨をズバンとストレートに押し出した出汁と、コクとキレを兼ね備えた醤油の双方が並び立ち、しのぎを削り合う。そんなイメージで作りました。醤油という素材の魅力を極限まで引き出すため、3種類の醤油(生揚げ・溜まり・再仕込み)をフル活用しています。他方、塩は、出汁感を前面へと押し出すことに注力しました。出汁のうま味に更なる幅を持たせるため、鴨に貝を寄り添わせ、出汁の風味を支えるタレに『大海の恵み(ホタテ・アサリ・カツオ・昆布・煮干)』の芳醇なエキスをふんだんに溶かし込みました」

醤油は手揉みした太平打ち麺
醤油は手揉みした太平打ち麺

 醤油には、強烈なけん引力を持ったスープに競り負けぬよう、手揉みした太平打ち麺を合わせ、塩には、輻輳する出汁の風味を活かすべく、しなやかな細麺を合わせる。

塩には出汁の風味を活かすべく、しなやかな細麺が採用される
塩には出汁の風味を活かすべく、しなやかな細麺が採用される

 オープンしてまだ日が浅い新店でありながら「醤油そば」と「塩そば」とで、趣を全く異にする味わいを演出することに成功しており、かつ、いずれも作り手である阿部氏の「顔」が見える1杯となっている。

 店内に居合わせた他のお客さんの食べっぷりを見ても、皆、一心不乱に丼と向き合っていた。スープを残す人など皆無。「素晴らしい1杯をありがとうございます」。そう心の中で呟きながら店を後にした。

・・・・・・・

(※)現在のところ「鴨白湯和えつけそば」は、昼の部10食、夜の部10食しか提供しない限定メニュー。「汁そばはあっさり系、つけ麺は濃厚系を提供したい」という阿部店主の考え方の下、こちらは清湯でなく白湯ベースとなっている。

●SHOP INFO

鴨出汁中華蕎麦 麺屋yoshiki 外観

店名:鴨出汁中華蕎麦 麺屋yoshiki

住:東京都葛飾区東新小岩1-3-7
TEL:03-6657-7763
営:11:00~15:00、18:00~21:00、水曜11:00~15:00
※スープまたは麺が無くなり次第終了
休:木曜

●著者プロフィール

田中一明

フリークを超越した「超・ラーメンフリーク」として、自他ともに認める存在。ラーメンの探求をライフワークとし、新店の開拓、知られざる良店の発掘から、地元に根付いた実力店の紹介に至るまで、ラーメンの魅力を、多面的な角度から紹介。「アウトプットは、着実なインプットの土台があってこそ説得力を持つ」という信条から、年間700杯を超えるラーメンを、エリアを問わず実食。47都道府県のラーメン店を制覇し、現在は各市町村に根付く優良店を精力的に発掘中。