旨い店はタクシー運転手に訊け! 懐かしく新しいラーメン店『昭和歌謡ショー』(巣鴨)の至極の「中華そば」

レトロで新しい「中華そば」に感動!

都電荒川線「庚申塚」駅ホーム
都電荒川線「庚申塚」駅ホーム

 ガタンゴトンとのどかに走る都電荒川線の「庚申塚」を下車して徒歩2分の場所に、わずか4坪、カウンター6席のお店『昭和歌謡ショー』があります。

 2010年にオープンして、あっという間に口コミで噂が広がり、テレビ番組でジャニーズの「嵐」が食べにきて絶賛したこともあって、小さくて目立たない店のようですが、この界隈の名物店です。

ラーメンは6種類あります
ラーメンは6種類あります

 私が初めて訪れたのは5年ほど前。最初に食べたのは醤油味の「中華そば」(930円)でした。「当店のラーメンはうまみ調味料を入れていません」と表に書いてあったので、それをわかって食べたつもりでしたが、予想をはるかに超えた繊細な味だったんです。

「中華そば」の「チャーシューメン」1,130円。昔ながらの丼の模様(雷紋)もレトロです
「中華そば」の「チャーシューメン」1,130円。昔ながらの丼の模様(雷紋)もレトロです

 少し変な表現かもしれませんが、スープを口に含むと舌が「し~ん」と静まるような、味覚が研ぎ澄まされていく清らかさを感じるんです。醤油と素材たちが自然に融合した柔らかな旨みで、全身の細胞にスーッと染み込んでいくような感じ。

 麺は、国産小麦100%のストレート細麺。ツルツルッと喉越しがよく、まとわりつくような油っぽさはありません。食材を生かした和食を食べているような気持ちにすらなります。

 初回、「中華そば」の美味しさに感激し、日を置くことなくすぐに来訪しました。というのも、どうしても食べたかったメニューがあったからです。それは「地球の塩」(980円)という塩ラーメン。

「地球の塩」960円
「地球の塩」960円

 塩味のラーメンというのはとても難しいんです。スープの味がダイレクトに出るうえ、塩味具合によっては、水を飲まずにいられないというタイプのものもあります。

 しかし、「地球の塩」はその塩味が全く気にならないんです。麺、スープ、そして具材の豚肩ロースのチャーシュー、白髪ネギ、玉ネギ、フライドオニオン、海苔、卵といった丼の中の全ての味が計算され尽くしており、食中から食後の余韻までパーフェクト。軽くて、実に深い。

 店主の杉山晴美さんとお話しすると、スープは鳥取の「大山どり」からとり、出汁は利尻昆布一等枯本節の2年物と3種の節の混合を合わせて作るダブルスープだそうです。ただし、ラーメンごとにその配合を変えたり、様々な工夫をしているよう。

 ちなみに「地球の塩」は、動物系のスープと魚介系の出汁の比率を地球の陸と海の割合(3:7)と同じにして、スープ(動物系)3と出汁(魚介系)7にしているそうです。

 また、一般的なラーメンでは油を40ccくらい入れますが、ここではその1/4程度しか入れていないそう。

「うちのラーメンは1つ1つにコンセプトがあり、それぞれの丼の中に宇宙観があるんです。ただ全てに共通していることは、“体に優しい味”であること」と杉山さんは言っていました。

 他のメニューには、免疫力を高め抗がん作用が高いニンニクを使った「女のニンニクラーメン」(1,000円)や、愛媛の七福白醤油を使った「白醤油ラーメン」(960円)などがあり、聞けば、それぞれのストーリーをいっぱい話してくれます。

「今のラーメン屋さんは食券スタイルの店が主流で、会話がないですよね。でも私は、店は接客が命だと思うんです。うちはこんな小さな空間で、お客さんと向かい合ってるわけですから、会話を大事にしたい。だから、メニュー1つとっても、工夫した名前をつけています。ぜひ由来を聞いてほしいですね」とのこと。

 さらに、壁には「一曲0円」なんて洒落たメニューがあるんですよ。これはマクドナルドの「スマイル0円」を真似したと言っていました。ちなみに、お願いすると、杉山さんがギターを抱えて歌ってくれます。まさに『昭和歌謡ショー』的な雰囲気です。

ラーメンも美味いが歌も上手い杉山さん
ラーメンも美味いが歌も上手い杉山さん

 唄うラーメン屋さんなんて面白いでしょ。ラーメンも唄も感激して鳥肌たちます。ぜひ『昭和歌謡ショー』に行ってみてください。世知辛い世の中ですが、杉山さんに心を和ませてもらえますよ。

(撮影・文◎土原亜子)

●SHOP INFO

昭和歌謡ショー

店名:昭和歌謡ショー

住:東京都豊島区巣鴨4-35-2
TEL:非掲載
営:11:00~15:00、17:00~21:00
休:月(祝の場合は、火休、地蔵通り商店街が縁日の場合は営業)

●プロフィール

荒川治

東京都内在住のタクシー運転手。B級グルメ好きが高じて、現職に就き、お客さんを乗車させつつ、美味い店探しで車を回している。中年になってメタボ率300%だが、「死神に肩をたたかれても、美味いものを喰らって笑顔で死んでやる」が信条。写真検索で美味しそうなモノを選び、食べに行って気に入ればとことん通い倒す。でもじつは、自分で料理を作ることも好きで、かなりの腕と評判。