レモンサワーの達人、田中開×レモンザムライが語る! 「本当に旨い」缶チューハイの条件とは?

キーワードは、日本人好みの「飲みやすさ」

編集部:昭和の時代から赤提灯の店で飲まれていたレモンサワーがブームになっている理由は、何だと思います?

レモンザムライさん:最近は、ストロング系のお酒の需要も伸びてはいるんですが、全体的にはビールや日本酒の売上げが下がってきていて、クセの強いお酒よりスッキリしたお酒のニーズが増えている。それとレモンサワーは、本来、昔ながらの飲み物ではあったけど、最近は渋谷にも恵比寿にも横丁(※)ができて賑わってますよね。若い世代もレモンサワーに触れる場所が増えたという印象がありますね。

(※)現在、東京は横丁ブーム。ここで話題に上っているのは、2010年にできた肉横丁(渋谷)、2008年にオープンした恵比寿横丁(恵比寿)のこと。

田中さん:店を経営する側からすると、チャレンジしやすい飲み物ではあるよね。原価も高くなく、割り材もいろいろでアレンジしやすい。ブーム前後で言えば、ブームと言われてから、オシャレな店が積極的に出すようになった。

編集部:健康志向もあるんでしょうか。

田中さん:うん… というより、そもそも体質的にそんなに飲めないんですよ、日本人は。全体の2割が飲めなくて、2割はお酒があまり好きじゃない。日本人で飲める人って、6割くらいなんですよね。だからハイボールが流行って、レモンサワーが流行る。

レモンザムライさん:その観点は面白いですね。開君はよく海外にも行ってるし、その土地の酒場事情も詳しいから、外国人の嗜好はよく知ってるんじゃないですか?

田中さん:先日、スペインに2週間行って50軒くらい回りましたけど、みんな昼から飲んでますよ。彼らにとって酒はそもそも昼から飲むものなんですよね。

レモンザムライさん:日本も赤羽あたりは昼から飲んでますけどね(笑)

田中さん:そう、それ。日本だと「どこそこでは昼から飲んでる」みたいなネタになるんですが、例えばロンドンでは、そうじゃない。昼休みにスーツ姿の会社員がビルから降りてきて普通にビール飲んだりするわけですよ。日本で言えば大手町のビジネスマンが昼休みに飲んでまた仕事に戻るイメージです。

レモンザムライさん:なるほど~。飲みやすいお酒が流行るっていうのは、日本人からすると理にかなってるわけだ。

達人たちが語る、レモンサワーの魅力

田中さん:でも、最近は欧米でも飲めない人が増えてるみたいで、世界的にピスコサワー(※)が人気になってますよ。サワーの元を辿って行くと、レモンジュースと砂糖を入れてシェイクするだけのサワーと、卵白を入れるサワーの2つあるんです。後者の例で言えば、ロンドンがそう。サワーを頼むと、卵白を入れて泡立てたものが出てきます。ロンドンで「サワー」といえば、卵白でお酒にテクスチャーを出したものが主流なわけですね。

(※)ピスコサワー…ペルーを代表するブドウを原料とする蒸留酒。ピスコサワーは、ピスコに、卵(卵白)、レモン果汁、砂糖、氷を混ぜて作られるカクテルのこと。

レモンザムライさん:へえー、そうなんだ。

田中さん:ただ、日本に来たサワーは、戦後、アメリカの進駐軍から入ってきたものなので、“卵白を入れないサワー”が戦後の日本でも流行ったと言われてます。だけど、レモンサワーのルーツは実はよくわからない(笑)。諸説あって、“レモン爽やか”がなまって付いた名前だという説もあります。僕の予想では、サワーというカクテルがすでにあったから、サワーにしちゃえ、という逆向きの命名だったんじゃないかなと思います。流れとしては、カストリやバクダンといった下町酒に近いですしね。

レモンザムライさん:最初に売り出したのは博水社(※)の社長でしたっけ。僕はアメリカのサワーは知ってたけど、卵白を入れるものがあるのは知らなかったなあ。

(※)博水社…「お酒を割るならハイサワー」のフレーズで一世を風靡し、日本初のお酒の割り材「ハイサワー」を生み出した、昭和3年創業の老舗企業。

田中さん:そういう話は道玄坂の『カプリス』(※)に行くと教えてくれます。僕はレモンサワーの魅力って、そういうところに感じてますね。すごく日本的じゃないですか。東洋の端っこにあるから、いろいろなものが削ぎ落とされて入ってきて、最後は自分たちの飲み物にしている。

(※)『カプリス』…東京・渋谷の道玄坂に2014年にオープンしたオーセンティックバー。名バーテンダー・大泉洋に師事したマスターが取り仕切る店。

レモンザムライさん:日本のレモンサワーって、幅が広い飲み物ですよね。蒸留酒ベースだったらウォッカでもジンでもテキーラでも、日本の定義で言えば「レモンサワー」になる。そこも面白くて、研究して作ってみたり、いろいろな店を回ったり…。それで開君の店も知ったんですが、とにかく『The OPEN BOOK』のレモンサワーは別格で、いろいろな人に紹介しまくりました。酸味、甘み、炭酸、アルコール感……飲んだ瞬間に旨味を感じます。バランスがすごいとしか言いようがない。

田中さん:ウチはもう、全方位です。ただただ美味しいレモンサワーをめざして、香り、旨味、酸味、炭酸の酸、温度をどれだけ冷たくするか、口当たりをどれだけ良くするか……そうした要素をすべて上げていく。大きい氷を使って、ずっと冷たく飲めるようにしているし、グラスは薄いのを使うし、奄美大島の黒糖焼酎「まんこい」を使って香り付けはピールだけで行います。

レモンザムライさん:「まんこい」は樽に漬け込んでる焼酎だから香りがいいですね。キビ糖から作った自家製の黒糖シロップも使ってますよね?

田中さん:フルーツシュガーもちょっと入れますけどね。

レモンザムライさん:だから冷えても甘さが残るわけだ。

田中さん:でも使いすぎると甘ったるくなるので、ミネラルの強い黒糖を組み合わせるんです。温度はすごく大事ですね。