元祖カツレツの名店・上野『ぽん多本家』の矜持は、細部にまで行き届いたこだわりにあり!

素材へのこだわりと細やかな気配りが老舗の味を生む

ロース肉から取り除いた脂でラードをつくる。元祖カツレツのこだわりだ
ロース肉から取り除いた脂でラードをつくる。元祖カツレツのこだわりだ

 美味しさの秘密は大きく3つ。まずは素材のよさ。長年の付き合いがある業者と相談しながら、産地にこだわらず上質なロースのみを仕入れています。2つめは、丁寧な下処理。まずは脂を全て切り取り、肉と脂の間にある薄い筋をもキレイに取り除いていきます。使用するのは全量の半分にも満たない芯の部分のみ。何とも贅沢なロース肉です。

「赤身と脂では最適な揚げ時間が異なるので、一緒になっているとどうしても揚げムラができてしまうんです。また、筋が残っているといつまでも噛み切れない部分が口中に残ってしまいますから」と島田さん。

 ここでトリミングした脂は大きな鉄鍋に入れてじっくり火を入れ、黄金色のラードを抽出していきます。カツレツに使うのは手間暇かけて作るこの自家製ラード。揚げる直前に繊維を叩いて柔らかくした肉を120℃の低めの温度帯でじっくり火を入れ、油の立ち具合を見ながら160℃まであげて10分ほどで完成です。

「ロースカツ」2,700円
「ロースカツ」2,700円

「肉から脂を取り除く分、衣にラードを吸わせてやって、そちらで脂特有の甘みと風味を感じていただければ」。しみじみ美味しいカツレツは細かく刻んだキャベツと共に。芯を取り除き、繊維に対して垂直に切ったキャベツはふわりと口当たりが柔らかです。

「ビーフシチュー」4,300円
「ビーフシチュー」4,300円

 ビーフシチューのブラウンソースももちろん手作り。焦がさないよう小麦とバターを炒めては寝かせて3週間。煮込まれたビーフは繊維がはらはらほどける柔らかさです。シチューには旨みとコクたっぷり。後味がよく、苦みもありません。「私達が下ごしらえに時間をかけるのは、お寿司屋さんが気合を入れて酢飯を作るのと一緒。いいネタを仕入れても、土台がきちんとしていなければ、美味しいものにはなりませんから」。

食器と空間も料理の味を引き立てるアクセント

 創業当初の『ぽん多本家』は元宮内省(現・宮内庁)の料理人によるおまかせ主体の高級洋食店でした。それもあってか、使い続けている食器は創業年の近い高級食器の大倉陶園のもの。白磁を縁取る金のラインが主役の料理を引き立てます。「なかには戦前のものもあって、大倉陶園の方が見に来られたこともあるんですよ」。

 取材中、気になったことがありました。これだけ油を使うお店なのに、油っぽい匂いやベタベタしたところが一切ないのです。「先代が掃除にうるさくて、店内やトイレをキレイに磨いておきなさいと言われ続けてきたんです。それが日常になってしまったので、掃除は一切に苦になりません」と島田さん。「外食しても、調理場もトイレもキレイなお店は大抵美味しいですから」と語ります。