旨い店はタクシー運転手に訊け! 粉のプロが作る日本一“分厚い”たい焼き専門店『けんぞう』

おデブたい焼きはどうしてこんなに皮が美味しい?

 なぜ、ここのたい焼きは、こんなに皮が美味しいのか。そのヒミツは、こちらのたい焼き職人のご主人・内藤実さんが、元・製粉会社にお勤めしていた“粉のプロ”だからなんです。店先でお客さんの対応を担当していた奥さまの寿美子さんによれば、

「主人は、いろいろな種類の小麦粉の特徴や美味しさを知り尽くしているので、粉の美味しさを地元の人にもっと知って欲しいと思って、定年退職後にたい焼き屋さんを始めたんです」とおっしゃっていました。

 もともと「粉の美味しさを伝える」ために作られたのが『けんぞう』のたい焼きなので、数種類の粉をブレンドする調合から焼き方まで、ご主人のこだわりが詰まっているんです。

 ところで、こんなに分厚いたい焼きをどうやって焼いてるか興味があって、ご主人が焼いているところをじっと見させていただくと、なんと1回(30個分)焼くのに35分もかかることがわかったんです。ご主人によると、通常のたい焼きは10分程度だと言いますから、その3倍以上の時間をかけてじっくり焼いていくんです。

 見ていると、とっても楽しいので、少しご紹介します。

 まずは、たい焼きの鋳型の片面一列に一つひとつ生地をたっぷり流し込みます。あふれそうなくらいです。次に、そこに1つ1つあんを入れていきます。頭から尻尾までしっかりあんが入っているのよくわかります。

あんをいれたら、反対の面に生地を流して、じっくりと焼き上げていきます
あんをいれたら、反対の面に生地を流して、じっくりと焼き上げていきます

 ぷくぷくと皮がふくれてきて、生地の色が黄色に変わったら、鋳型同士を合わせます。鋳型を合わせるまでにもかなり時間を要します。

鋳型を合わせたら、表裏が合体。でもまだまだ終わりではありません
鋳型を合わせたら、表裏が合体。でもまだまだ終わりではありません

 鋳型を合わせると、こんがりきつね色のたい焼きが誕生しました。これで出来上がり? と思ったら、まだまだあるんです。おデブなたい焼きだけに、

「ぶ厚いからね、たい焼きの上と下にもしっかり火を通さなくちゃいけないんだよ。つまり“四面焼き”」とご主人。

まずは下を焼き、その後上を焼きます。
まずは下を焼き、その後上を焼きます。

 この上と下を焼く状態は、「たい焼きが立って整列している姿」のよう。一般のたい焼きやさんでは絶対見られない光景です。

 最後は、上の面を焼くので、たい焼きくんたちは、逆立ちします。

 というわけで、こんな美味しくて、面白いたい焼きやさんは他にはなかなかないと思います。ご主人も奥様もとても優しくて、たい焼きを買いに行くたびに癒されます。ぜひ、日本一ぶ厚い『けんぞう』さんのたい焼きを食べに行ってみて下さい。

(撮影・文◎土原亜子)

●SHOP INFO

けんぞう たい焼き

店名:けんぞう たい焼き

住:東京都板橋区仲宿60-3-5
TEL:03-3964-2873
営:9:30~20:00頃
休:不定休

●プロフィール

荒川治さん

東京都内在住のタクシー運転手。B級グルメ好きが高じて、現職に就き、お客さんを乗車させつつ、美味い店探しで車を回している。中年になってメタボ率300%だが、「死神に肩をたたかれても、美味いものを喰らって笑顔で死んでやる」が信条。写真検索で美味しそうなモノを選び、食べに行って気に入ればとことん通い倒す。でもじつは、自分で料理を作ることも好きで、かなりの腕と評判。