誕プレからガウディ、そして限定酒にまつわる苦笑エピソードまでもが佳肴である。【酒器も肴のうち】

お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるあの人のお気に入りや、あのお店のセレクション。酒器を愛でながら一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。

誕プレからガウディ、そして限定酒にまつわる苦笑エピソードまでもが佳肴である。【酒器も肴のうち】
食楽web

『酒器も肴のうち』第44献は前回に続き、宮前優子さんの酒器を拝見させていただく。化学品メーカーの営業職で海外出張も多く、逆に海外からのお客さまを迎えて一席ということもある宮前さん。日本酒は海外でも人気と聞くが、取引先の外国人の反応はどうなのだろうか。

「日本酒に興味を持っている方は多いですが、日本酒独特の味の強さというか濃さが苦手という人もいれば、香りがよくて美味しいという人もいて好き嫌いがはっきり分かれますね。私自身もどちらかというと普段はワインかビールなので、海外からのビジターに日本酒を教えられるほど詳しくはないですが、特別好きなお酒はありますよ」(宮前さん・以下同)

 全国に数え切れないほどある日本酒の銘柄の中で、自分好みのお酒とどこでどう出会うのだろう。やはり利き酒イベントのようなものなのかと興味津々だが、ともあれ酒器である。

 登場したのは片口と平盃のセット。フリーハンドの線刻がリズミカルで楽しげだ。個人的にこの手のアーティスティックな作風にめっぽう弱い。

「(前回紹介した)金箔陶芸の酒器セットを購入してからまもなく、友人から誕生日プレゼントでもらったものです。

 贈り主はイタリア通でワイン党なのでちょっと意外でしたが、私が最近日本酒に凝ってると言ったのを覚えてくれていたみたいで、それがなにより嬉しかったです。優しい色合いで可愛らしくて三つ足高台の盃も特別感があって気に入っています」

 ときどき、個性的な酒器に出会うとどんな人が造ったのだろうと想像する。女性なのか男性なのか、ゴツい手の作家さんなのか、きれいな人なのかなど妄想するのも楽しいのだが、どうやら贈り主自身も作家名を失念したらしく、答え合わせができなかった。少々もどかしいが、造り手を想像しながら一献傾けるのは楽しい。

 酒器を買った途端、酒器をもらうというタイミングが重なったのは日本酒の神様のいたずらなのかと思ったりするが、日本酒のための酒器らしい酒器がなかった頃はショットグラスを使っていたという宮前さん。

「もともと器が好きで、旅先でも食器屋さんをよくのぞきます。サグラダ・ファミリアが描かれたすりガラスのショットグラスはスペインで購入したものです。お猪口感覚でちょうどいい大きさですが、ぐい呑を手に入れてからは使うことがなくなって、今は器コレクションコーナーに飾っています」

 さて、最後に宮前さんが特別大好きだというお酒との出会いを伺ってみる。

「百貨店の酒販コーナーの催事で試飲したのが最初。蔵元さんもいらしていろんなお話をしました。伝統的な袋しぼりで造られた本数限定のレアなお酒らしくて、一緒にいた主人と美味しさのあまり即買い。雑味がなくて、香りの広がりがとても心地いいんです。

 その後、主人の実家がある神戸でお正月を過ごしたときに持参したら、お酒好きの義父の反応はいまひとつ。これはこれでええんやけどなと言っていつも愛飲している灘のお酒に切り替えていました(苦笑)。たぶん義父が飲みなれた味わいとは違ったんだと思います。その時はふたりで拍子抜けしましたけど」

 苦笑いさせるエピソードはさておき、以来、お気に入りの限定酒がリリースされるたびに毎年取り寄せ、昨年は富山にある酒蔵にも足を運ぶほどの入れ込みよう。

 美味しいお酒にめぐりあうと、先述の酒器の作家を想像するのにも似ていて、どんな場所でどんな人がお酒を造っているのかと考える。宮前さんが訪れたという蔵元の話を聞き、まだ見ぬ酒蔵へ思いを馳せて一献。これからも美味しいお酒と、佳肴になる酒器にめぐりあえますように。

●取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。