今年も早いものでもう年の暮れ、気がつけはお正月もすぐそこである。年々、1年という月日の経過が加速度的にスピードを増してくる感じに恐れおののき、「加齢」という文字が重くのしかかってくる気がするのは私だけだろうか…。とはいえ歳を取って色々と感じ方が変わってくるのは必ずしも悪いことばかりではない。古くから残る日本の慣習などにしみじみとした味わいを感じるようになったりしてそれはそれでいいものだな、と思うこともある。
お正月だったら例えば注連飾りや松飾りなど、若い頃はほとんど関心がなかったようなものに心が動かされるようになったりするから不思議なものである。とはいえ、いざ自分で飾ってみようと思ってもどこか気恥かしさを感じたり、マンション暮らしで飾ってもなあ、なんて思う人も少なくないのではなかろうか。そんな方にもオススメしたいのがこの萬古焼の鏡餅である。
一見、陶磁器には見えないほど柔らかな乳白色が、まるで出来たてのお餅のような質感を再現しているのは、あえて釉薬をかけずに焼き締めているから。何とも言えない清々しさと温かみを感じるのが不思議だ。上のお餅部分が蓋になっていて、ちょっとしたものを入れる容器として使うこともできる。半磁器製の鏡餅なので、もちろん腐る心配もなく毎年使えるのが嬉しい。
萬古焼は江戸中期に始まり明治期より三重県四日市市の地場産業として発展した陶磁器のこと。現在は耐熱性の優れた紫泥を使った土鍋や急須などが有名である。その四日市市に、当代きっての人気陶芸家であり古物の目利きとして知られる内田鋼一さんが20年に渡って集めたユニークな萬古焼のコレクションを展示するBANCOアーカイブデザインミュージアムという小さな美術館がある。実は、その美術館のコレクションのひとつである古い鏡餅を内田さんの力を借りて復刻したのがこの鏡餅なのである。もともとはおそらく戦中戦後の物資不足の時代に貴重だった米や餅の代わりに作られたものらしい。
飽食の時代と言われる現代だが、どんな時でもこうした古来の慣習を大事にしてきた日本人の精神性、受け継ぎたいではありませんか。
●著者プロフィール
大熊健郎
CLASKA Gallery & Shop DOディレクター。1969年東京生まれ。インテリア会社、編集プロダクション勤務を経て2008年CLASKAのリニューアルを手掛ける。同時に立ち上げたライフスタイルショップ「CLASKA Gallery & Shop DO」ディレクターとして、バイイングから企画運営全般を担う。
http://do.claska.com/