神保町の老舗喫茶『さぼうる2』の謎スパゲティ「イタリアン」って何?

神保町の老舗喫茶『さぼうる2』の謎スパゲティ「イタリアン」って何?
食楽web

「ナポリタン」や「ミートソース」と言えばすぐに頭に浮かびますが、「イタリアン」と言われたらどうでしょう? 関西では「ナポリタン」=「イタリアン」だという噂がありますが、多くの人は「何それ?」と思うのではないでしょうか。そこで、「スパゲティ・イタリアン」とはいったい何なのか。その正体を解き明かすべく、まずは「イタリアン」を出している東京・神保町の老舗喫茶『さぼうる2』に向かいました。

神保町駅から徒歩1分の老舗喫茶『さぼうる2』
神保町駅から徒歩1分の老舗喫茶『さぼうる2』

 神保町と言えば、書店や出版社が集中する“本の街”。特に古書店が約180店もあり、「こんな美しいレトロ本屋街は世界中探してもない」と称されているほど。

 その中心とも言える神保町交差点の裏路地に、今回の「スパゲティ・イタリアン」を出す老舗喫茶『さぼうる2』があります。レトロな赤電話が置かれた本店『さぼうる』の隣。

『さぼうる』と『さぼうる2』は隣同士。どちらも1955年創業
『さぼうる』と『さぼうる2』は隣同士。どちらも1955年創業

『さぼうる』と『さぼうる2』の違いは、簡単に説明すると、『さぼうる』はサンドイッチやトーストなどの軽食メニュー、『さぼうる2』はスパゲティなどの食事メニューを主に出しているところです。

 しかし、どちらも「レトロカフェ」の代名詞的存在。そして、本屋巡りをした人の憩いの場、編集者や作家の打ち合わせ場、そして学生やサラリーマンの“サボり場”として使う喫茶店なのです。

 かくいう筆者も新入社員の頃、「書店に調べ物がある」と言って、『さぼうる』のコーヒー1杯で1時間はサボっていました。しかし今回、久々に訪れたのは、『さぼうる2』のほうであり、サボるどころか重要な任務を受けての訪店です。

『さぼうる2』のおひるのメニュー。ほとんどの人が「ナポリタン」を注文します
『さぼうる2』のおひるのメニュー。ほとんどの人が「ナポリタン」を注文します

 目を凝らして店先に立つと、『さぼうる2』の壁には「おひるのメニュー」の看板があり、そこに「イタリアン」という文字を確認できました。そこで入店。店内は、学生さんグループと、サラリーマン、ご年配の男性客などで満員です。

 ちょうどお昼時。お客さんのほとんどが食べているのは、真っ赤に染まったスパゲティです。遠目に見ても山盛りとわかるボリュームです。ベーコン、玉ねぎ、マッシュルームと思しきものが山の頂点にたっぷり乗っているようです。そう、ここの名物は「ナポリタン」。各メディアで何度も紹介されていて、その美味しさは保証済みです。その陰に隠れてひっそりと「イタリアン」があるのです。

隣席のおじいちゃんが注文したナポリタン
隣席のおじいちゃんが注文したナポリタン

 今回は、任務遂行のため、赤ナポリには目もくれず、潔く「イタリアン」を注文しました。でも、一応、お店の人に「イタリアンってどんなスパゲティなんですか?」と聞いてみると、「塩味です」と教えてくれました。どうやら関西地方とは違い、ここでは、ナポリタンとイタリアンは別もののようです。

 塩味、すなわち、どう考えても色は“白”。紅白歌合戦や運動会だとしたら、 “赤組”の勝利とわかっているようなこの状況で、白を選ぶとは……と負け戦気分でいた時、登場したのがこちら。

「イタリアン」700円(サラダ付き)
「イタリアン」700円(サラダ付き)

 予想通りの白いパスタで、「大盛り」と頼んだわけでもないのに山盛り。そして、パッと見、ほとんど具が見えません。別添えのソースもないので、この山の中に何かが隠れているのかもと想像してみます。鹿児島名物のかき氷「しろくま」のように……。

 しかし、確認できたのは、サラミのような赤い切れっ端と、炒め玉ねぎ、薄っぺらいマッシュルーム計3切れ。他には何もありません。また、「減塩主義?」と思うくらい、味もない。いや、ごくごく薄い塩味でしょうか。

 この薄味で、大量の麺を食べきる自信がないので、一緒に出された調味料「塩、粉チーズ、タバスコ」の3つの調味料を活用します。隣のおじいちゃんが食べている「ナポリタン」のような赤色になるまでタバスコを大量振りしようかと思っていた矢先、ハッと、目を奪われる“緑色のもの”に出くわし、手が止まりました。それは1片のピーマン。

「3」という数字のようにも見えるピーマンが一片
「3」という数字のようにも見えるピーマンが一片

 別の料理の具材であるピーマンが間違って飛び込んだのか? それともわざと1片だけを入れたのか? しかし、この色鮮やかな緑色のピーマン1片が面白すぎます。

 そして、塩と粉チーズをふりかけてよく味わうと、余計な具材がないからか、オリーブオイルと粉チーズが混ざり合い、さらにはパスタ自体のコクも感じて、案外、クセになります。食べ終わる頃には、日本人が作った和製メニューであるナポリタンに対し、これは本場イタリアの味に近いパスタなのかもしれない、とすら思えてきたのです。

 結論です。『さぼうる2』の場合、「スパゲティ・イタリアン」は、ほぼ「素パスタ」ですが、自由に味の濃さを調節できる便利なメニュー。そしてこれはイタリアの素朴な家庭料理なのかも……。
 帰り際、お店の人に「イタリアンの名前の由来」を聞いてみました。すると!

「30年以上前にできたメニューなので、よくわからないんですよ。でもテキトーにつけたんじゃないですかねぇ」とのこと。

 まさかテキトーとは!

 しかし、この地味な「イタリアン・スパゲティ」が老舗喫茶で30年も愛され続けているロングセラーだということがわかってホッとしました。ナポリタンに押され気味のイタリアンですが、つい、こうした日の目を見ない負け組を応援したくなる気持ちになってしまう。それが「イタリアン」を食べた人の心。

 でも30年も前からあるのに認知度がイマイチなのは何かの主張が足りないのでは? 奥ゆかしすぎる? やっぱり「イタリアンの謎」は深まるばかりなのでした。

(続く)

(取材・文◎土原亜子)

さぼうるの前にある赤電話
さぼうるの前にある赤電話

●SHOP INFO

店名:さぼうる2

住:東京都千代田区神田神保町1-11
TEL:03-3291-8405
営:9:00~22:00
休:日