羊齧協会お墨付き!ハイレベルな日本酒と羊肉つまみが旨い荒木町の名店『ろっかん』

羊齧協会お墨付き!ハイレベルな日本酒と羊肉つまみが旨い荒木町の名店『ろっかん』
食楽web

荒木町『ろっかん』は、羊愛溢れる和食店

「和食で羊の美味しい店は?」

 たまに聞かれるこの質問。これ、非常に答えにくい質問なんです。ジンギスカンは、実は北京名物の「カオ羊肉(カオヤンロウ/カオは火へんに考)」に由来するといいますし、ラムしゃぶも和食ではなく、もとは同じ北京で食べられている「シュワン羊肉(シュワンヤンロウ/シュワンはさんずいに刷)」がベースなので、純粋な和食とも言い難い。メディアの方に「羊肉を使った和食」と聞かれるたびに、頭を悩ませていました。

 そんな年末のこと、私が主催する羊齧協会(ひつじかじりきょうかい)の日本酒好きの間で「旨い」と話題になっているお店がありました。四ツ谷・荒木町にあるその店は、日本酒と和食にこだわり、関西出身の店主が腕によりをかけた酒肴を出す店とのこと。しかも、羊肉料理が旨いというではありませんか。店名は『ろっかん』。聞いただけでは、和食店と羊肉が、頭の中で結びつきません。ある日、疑問を抱きつつ訪ねてみると、そこには驚きの羊空間が広がっていました。

 飲み屋の並ぶ荒木町の裏通り。階段を上がった2階にある小体ながら非常に居心地の良い和食店です。内装も落ち着いた和テイスト。しかし、入店早々、この手の店ではあまり漂うことがない香りが鼻をくすぐります。カウンターから店主の手元を見ると、なんとラムチョップを焼いているではありませんか。「これは期待できるぞ」とメニューを手に取ると、季節の鮮魚やこだわりを感じる渋い酒肴などの間に、チラホラと「羊」の文字が。

羊が出てくるとは思えない、素敵な和空間
羊が出てくるとは思えない、素敵な和空間

 店主にお話を聞いてみると「僕、羊肉がじつは一番肉の中で好きなんです」と、嬉しいお言葉。そして、コトコトと煮ていたのはなんと山羊汁(680円)。しかも、四川風味だそうです。早速、いろいろと頼んでみることに。まず、驚いた料理は「羊の腐乳炒め」です。これは羊肉と豆腐に麹を塗り、塩水の中で発酵させた中国の調味料を合わせる料理。このセンスにまず脱帽せざるを得ません。

羊の腐乳炒め(1,200円)。ナッツと香菜で味が引き締まっています
羊の腐乳炒め(1,200円)。ナッツと香菜で味が引き締まっています

 その他、じっくり焼き上げたラムチョップや、香味漬けや和食テイストの羊料理。そして、ラムステーキ、羊餃子など、豊富な羊メニューを楽しみつつ、その羊料理に合う日本酒を聞けば気軽に答えてくれて、しかもハズレがない。

ラムを揚げたラムカツ。ラムを揚げることは少ないのです
ラムを揚げたラムカツ(880円)。ラムを揚げることは少ないのです

 なかなか日本酒と合わせるイメージのない羊ですが、その常識を覆してくれるお店でした。その心地よい雰囲気と、旨い羊料理をアテに、ついつい飲みすぎてしまいました。

料理注文時に相談すると、羊肉に合う日本酒をセレクトしてくれる
料理注文時に相談すると、羊肉に合う日本酒をセレクトしてくれる

 あまりに素晴らしいお店なので、いくらでも話ができるのですが、せっかくなら続きはぜひお店で体験していただければと思います。ちなみに、料理は季節ごとに変わるため、こちらで紹介したメニューが常設であるわけではありませんのでご注意を。いずれにしても、誰かに「和食で羊の美味しい店は?」と聞かれても、今後は胸を張って『ろっかん』の名を挙げられるようになりました。

 また、最新情報では、今年からさらにもう一歩、羊肉料理を多めにシフトさせる、とのこと。しかも羊肉の発酵の研究もされているということで、ますます目が離せない羊スポットになりそうです。

羊齧協会のひとくち羊メモ

羊肉と日本人の出会いは実は最近?

 羊肉が日本に伝わったのは推古天皇の御代。3頭の羊が百済から献上されたとの記述が初出です。しかしその後、羊の飼育は日本では広まらず、江戸時代などは、干支に数えられながら、誰も見たことがない動物の一つが「羊」だったというから驚きです。つまり、羊はそれだけ日本人には馴染みのない家畜だったということ。鶏肉は言うまでもなく、豚肉や牛肉は細々と食べられていたので、すき焼きや味噌漬けなどの料理があるのに、伝統的な和食の羊レシピがないのはこれが大きな原因です。

 羊は、江戸時代末期から実験的に買われてはいたのですが、あくまで、羊毛が目的で、肉は副産物としての立ち位置だったこともあり、本格的に「食べもの」として捉えられはじめたのは、ここ100年ほどの話ではないでしょうか。それ故、羊を扱う和食のお店という例はあまりないのです。

(撮影◎菊池一弘・酒井忠司)

●SHOP INFO

店名:ろっかん

住:東京都新宿区荒木町1-1 寿2 2F
TEL:03-3359-5595
営:[月~金]18:00~24:00 [土]11:00~17:00
休:不定休

●著者プロフィール

取材・文/菊池一弘

羊齧協会主席。羊肉を常食する岩手県遠野市出身の父の影響で、羊肉料理に親しんで育つ。北京留学中に現地の味に触れ、その魅力に開眼し羊好きの消費 者団体「羊齧協会」を結成。本業は、イベントの開催・運営、場作りのプロとしてのアドバイザー業務などに携わっている。
http://hitujikajiri.com/