クラフトジンも国産の時代? 噂の京都蒸留所に行ってきた

香りをチェックするアレックスさん

香りをチェックするアレックスさん | 食楽web

そのクオリティの確かさから、多くのプロたちから熱い視線を集めている「季の美 京都ドライジン」。国産では初となるこのクラフトジンを造っているのが京都蒸留所だ。クラフトマンシップあふれる小さな蒸留所を訪ねてみた。

ディスティラーは
若き英国人

 京都駅からタクシーに乗っておよそ15分。しばらく迷って、丸い小さな看板がぽつりとある工場のような建物を見つけた。倉庫のような外観からは想像もつかない内部には、蒸留設備がギュッとコンパクトに詰まっている。作業の手を休めてヘッドディスティラー(※ディスティラー=蒸留技師)のアレックス・デービスさんが現れた。まだ20代後半。子供みたいに目をキラキラさせ、あちこち飛び回っているかと思えば、「温度の調節も重要なんだ」と蒸留器を真剣な顔で見つめている。

蒸留所はアレックスさんを中心に、少数精鋭で奮闘中

蒸留所はアレックスさんを中心に、少数精鋭で奮闘中

 京都蒸溜所はジン専門の蒸留所としては日本初。昨年秋にファーストリリースとなる「季の美 京都ドライジン」を発売したばかりで、できたてほやほや。檜、柚子、緑茶、山椒など和を感じるボタニカルが香る「季の美」は、江戸時代から続く唐紙屋を継承した『KIRAKARACHO』とコラボレーションした雅なボトルが印象的だ。ベーススピリッツは米から造る“ライススピリッツ”を使用。でも日本=米の発想はちょっとストレート過ぎるかも? 

こちらが「季の美 京都ドライジン」

こちらが「季の美 京都ドライジン」

 「もちろんライススピリッツは最初から候補にありましたよ。でも何種類かブラインドでテイスティングしたんです。結果これが一番良かった。全員一致でした!」とアレックスさんは顔を輝かせる。

 「ライススピリッツは柔らかな味わいが特長です。コストはかかりますが、この選択は正しかったと思います」とは、代表のデービッド・クロール氏の言葉だ。

京都の人が誇りに思う
そんなジンを造りたかった

 ところで、なぜ京都に? 

 「京都の歴史や伝統に関わるモノ作りをいつかしてみたいと思っていたからです」とクロール氏。ジン造りにかかせない素材の多くが揃っていたことも理由のひとつという。さらに、「京都に住んでみたかったこともあるね」と笑う。クロール氏は英国出身。スコッチウイスキーを中心に輸入・販売するウィスク・イーの代表であり、良質なお酒を愛する人たちの間では、ちょっとした有名人だ。

 一方アレックスさんは英国のヘリオット・ワット大学で醸造・蒸留学を勉強し、コッツウェルズ蒸溜所ではヘッドディスティラーを務めた。「ジンを造るにあたっては京都という土地をとても意識しました」とクロール氏。世界では多くのジンが造られているが、その土地の魅力を活かしたものは意外にも少ないという。でも「季の美」に関しては、要となるほとんどのボタニカルは日常的に日本人が使うものばかり、水も伏見から。

「そういう意味では日本人のDNAが盛り込まれたジンだと思っています。コストを気にすることなく、ベストなジンを生み出すために製造工程には何よりもこだわっています」とクロール氏。

ジュニパーベリーや生姜など、ボタニカルも見せてくれた。

ジュニパーベリーや生姜など、ボタニカルも見せてくれた。

6つの原酒から生まれる
しとやかなアロマ

.この6種類の原酒をどう組み合わせるのかがブレンダーの腕の見せどころ

1.この6種類の原酒をどう組み合わせるのかがブレンダーの腕の見せどころ

 LABと書かれた部屋の扉を開けると、アレックスさんが6本のボトルを並べていた。味見してみてと合図する。季の美の原酒である。すべてのボタニカルを調合していっぺんに蒸留するジンもあるが、「季の美」は、シトラス系、スパイス系などたくさんのボタニカルを6つのカテゴリーごとに蒸留し、最終的にブレンドして完成させる。テイスティングすると、完成品を飲んだ時よりはっきりと檜や山椒、柚子などが感じられて興味深い。ジンの蒸留に慣れたアレックスさんも、山椒を使ったのは今回が初めてとか。

 最後に、アレックスさんにジン造りの魅力を尋ねると、「無限の可能性」とにっこり大きな笑顔が返ってきた。今後は日本の四季を取り入れたジンのアイディアもあるそう。日本のジンの物語はまだ始まったばかりだ。