酒器は花器。そして薬味皿にも大活躍なのです。【酒器も肴のうち】

お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるあの人のお気に入りやコレクション、あのお店のセレクション。酒器を愛でて一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。

酒器は花器。そして薬味皿にも大活躍なのです。【酒器も肴のうち】
食楽web

『酒器も肴のうち』第23献は、引き続き「アトリエ木里」の鈴木絵里さんにおつきあいいただきました。今回はいつになく華やぎのある酒器トーークです。

 ギャラリーにお邪魔した日、酒器に花をあしらって迎えてくださった鈴木さん。見るなり「素敵! とっても素敵!」と連呼してしまった。常々、酒器をお酒以外の用途にもと思うのだが、せいぜい塩辛や酒盗、タコわさ、それからチャンジャ、それから…(もういいか、笑)など、珍味を盛るのが関の山。うーむ、色気がない。そこにきて、このさりげない花あしらい。やっぱり素敵。

「お家でお酒を嗜む習慣がほとんどないので、飲むという目的よりは別な用途で酒器を使うことが多いですね。ギャラリーの花壇の草花を摘んで、小さな器にちょこちょこと活けるのは楽しいですよ。器が小さいからお花だってちょっとで済むでしょ。酒器は花器!」

 そう、酒器は花器! 間髪入れずにおうむ返しする筆者。以前、当コラムにご登場いただいたフラワーアーティストの方は一輪挿しを酒器に見立てていた。あのときは「花器は酒器」だったが、今回は「酒器は花器」。

 加えて、釉、ガラス、焼き締めの三者三様。形状も異なるが、これほど印象が違うのかと見入ってしまった。花のある生活に憧れるものの、なかなか取り入れられないでいたが、これは、気負わずちょっと真似てみようと思わせる。

「あとは、素麺や鍋ものをするときは薬味皿として活躍していますよ。とくに平たい形の酒器を見つけると、これには絶対薬味を入れてみようと思って買っていたり」。そう言って、見せてくださった写真には、ねぎやしょうが、大葉などの薬味がよそおわれた酒器が、お酒不在の食卓を賑わせていた。

「結局、小さいものが好きなんです。それに、コレクションするには小さいものの方がいいかなと思って。開催中の“小皿・豆皿で楽しむ秋の食卓展”も、小さい器を展示テーブルいっぱいにしたいという発想から生まれた企画展です」

 ときには花器に、ときには薬味皿に、そしてときどきお酒も。改めて鈴木さんの酒器コレクションを眺めていると、不思議とお酒を連想させない。

 お酒を嗜む習慣のない持ち主の生活に酒器が慣れてしまったのか、はたまたお酒以外での出番も多く、すでに酒器自身が酒器だということを忘れてしまったのか。そうかと思うと、我が家の酒器はいつだってお酒を注がれたそうな顔をしているものばかりだ。ある日突然花をあしらったら違和感を訴えないだろうか。花じゃなく珍味にしてくれ、いや、やっぱり酒にしてくれと。

猫の陶器や絵などを手がける作家・橋本薫さんの酒器。来年2月に開催される人気企画「木里の猫展」にも出展する。
猫の陶器や絵などを手がける作家・橋本薫さんの酒器。来年2月に開催される人気企画「木里の猫展」にも出展する。

 そしてやっぱりなにか言いたげにこちらをじーっと見ている猫。この子は何を注がれたら喜ぶのだろう。不機嫌な表情がむしろチャーミングなのだが、にゃんとも気になる酒器を脳裏に焼きつけてギャラリーを後にしたのでした。

●DATA

アトリエ木里

アトリエ木里

生活で使えるものや手仕事のよさが伝わる作品の企画展を中心に、絵画展、ワークショップも行うクラフトギャラリー。開催中の「小皿・豆皿で楽しむ秋の食卓展」(11月26日まで。※22日休廊)に続いて、年内最後にして毎年恒例の「木里のおくりもの展」を開催(12月2~10日。※7日休廊)。「木里の猫展」(2018年2月17日~25日。※22日休廊)。

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。