【SCAJ2017】パナソニックの家庭用IoT焙煎機に触れてみた【コーヒープレス古今東西 番外編2】。

挽いた豆にお湯を注ぎ、時間が来たらレバーを押し下げる。そんな簡単ステップで珈琲豆の味わいが堪能できるコーヒープレス。家事の合間に、仕事の休憩に。初心者からプロまで使えるうえに、手間いらずで実用的。なのになぜか、知名度は今ひとつ。使えばきっと好きになる、愛すべきコーヒープレスの魅力をご紹介します。

【SCAJ2017】パナソニックの家庭用IoT焙煎機に触れてみた【コーヒープレス古今東西 番外編2】。
食楽web

『SCAJ2017』レポートの最終回は、コーヒープレスならぬ「焙煎機」について触れてみたい。よく言われることだが、コーヒーの味は豆の種類だけではなく焙煎によっても変化する。私のような一般的なコーヒー愛好家はプロが焙煎した豆を購入するのがほとんどだが、自分で焙煎して繊細な味を楽しみたい、という熱心なコーヒーファンも少なくない。というのも、コーヒー豆は焙煎直後から成分の化学変化が始まり、日を追うごとに風味は変わっていく。自分の手で焙煎し、好みの塩梅を見つけるというのはなかなか贅沢な楽しみだ。

 直火にかけて煎るスタイルから熱風で温めるものまで、これまで様々な家庭用焙煎機が登場したが、今年の6月に家電大手のパナソニックが家庭用小型熱風焙煎機「The Roast」を発売したと聞いて気になっていた。『SCAJ2017』に「The Roast」ブースが出展すると知り、ぜひ実機を見てみることにした。話題の商品だけあって、ブースは大賑わいである。

 この「The Roast」の特徴は様々あるが、ひとつは単に焙煎機本体を販売するに終わらないサービススタイルがある。本体を購入後、定期頒布を申し込むことで毎月2種~3種(プランにより異なる)の生豆が定期的に届くのだ。

 季節により設定されたテーマに基づいて、世界中の産地から36種類のスペシャルティコーヒーをセレクト。自分で選ぶのとはまた違う「おすすめされる楽しみ」を毎月味わうことができる。

 この生豆と一緒に届くのが、情報誌「Journey Paper」。豆の生産地の情報に始まり、精製方法や現地の様々な習慣や文化についてまで豆知識がたっぷり盛り込まれているため、産地を旅するようにコーヒーの世界を広げる勉強もできる、という仕掛けだ。

 もうひとつの特徴は、焙煎にスマホ(iOS端末のみ対応)を使うこと。専用アプリをダウンロードすると、スマホが焙煎機のリモコン的な役割を果たしてくれる。もちろん単に操作をするというだけでなく、生豆の状態に応じた温度、時間、風量の最新情報を自動的にダウンロードできるのだ。しかもその焙煎プログラムは、2013年のワールドコーヒーロースティングチャンピオンシップで優勝した『豆香洞コーヒー』オーナー焙煎士の後藤直紀さんによるもの。

「スマホアプリの進化が、この焙煎機の完成に大きく貢献しました」と話すのは開発者のひとりである、パナソニックアプライアンス社 カンパニー戦略本部の鈴木久美子さん。
「生豆は生鮮品ですから、毎年状態が変わります。あらかじめ焙煎機本体にプログラムを組み込んでしまうと、生豆の状態に合わせて焙煎の加減を変えることが難しくなる。しかしアプリを使えば、その年、その産地の生豆に適した状態の最新プログラムを手軽に更新することができるため、いつも最高の状態で焙煎できるんです」。

 スマホを組み合わせることで、本体は熱風温度や風量をきめ細かく制御する焙煎機能だけに特化。シンプルでコンパクトなデザインが実現した、というわけだ。さて、実際に目の前で焙煎をしてもらうことにした。本体の上部に生豆をセットし、スマホアプリから該当する豆の銘柄を選び、浅煎り・中煎り・深煎りの中から好みの焙煎度合いを選んでタップすると熱風による焙煎がスタート。

 ブーンという音は小さくもないが大きくもない許容範囲。少しずつコーヒーの芳ばしい香りがのぼってくる。煎り具合にもよるが今回はだいたい10分強で焙煎が完了。まずは焙煎時に出る、渋みや雑味の原因とされるチャフ(コーヒーの薄皮のようなもの)がサイクロン技術の応用で別の容器に自動分別されるので、それを取り除く。

 最後に空の容器をセットし、本体のボタンを押すと煎りたての豆が出てくる。手順は驚くほどにかんたんだ。

「せっかく家で焙煎するなら、焙煎してすぐ、1日後、2日後……と味の変化を体験してみて、ご自身の好みの飲み頃を見つける、というのも楽しいです」と鈴木さん。ちなみにお値段は焙煎機本体+スターターキット(生豆2種)で100,000円(税抜)。毎月2種×12カ月の間生豆(1パック200g)が届くコースが3,800円(税抜)、3種届くコースが5,500円(税抜)。もちろん、生豆単品の追加オーダーも可能だ。

 焙煎機としては高価だが、アプリと連動したことで常に最新のプロファイルを入手できる、という点は安心できる。自分の手で、直火で豆を煎る喜びもあれば、ボタンひとつでプロの焙煎士の技術が家庭で再現できる贅沢もある。IoT技術が今後コーヒーにどのような進化をもたらすのか、楽しみだ。

●DATA
The Roast
http://panasonic.jp/roast/

●著者プロフィール

写真・文/木内アキ

北海道出身、東京在住。“オンナが楽しく暮らすこと”をテーマに、雑紙や書籍、ウェブなどで人・旅・暮らしにフォーカスした文章を執筆。プレスコーヒー歴7年。目標は「きちんとした自由人」。執筆活動の傍ら、夫と共に少数民族の手仕事雑貨を扱うアトリエショップ『ノマディックラフト』を運営中。
HP: http://take-root.jp/