誕プレのぐい飲みから、若手コンビのなれそめまで!【酒器も肴のうち】

お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるあの人のお気に入りやコレクション、あのお店のセレクション。酒器を愛でて一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。

誕プレのぐい飲みから、若手コンビのなれそめまで!【酒器も肴のうち】
食楽web

『酒器も肴のうち』第17献。100均グラスと利き酒イベント参加みやげのお猪口のお話で盛り上がった前回。今回も引き続き、新潟「宝山酒造」の営業・若松秀徳さんと酒器トーーク。若松さん愛用の酒器3種。やはり、本命は錫のぐい飲み?

「はい。飲食店に勤めていた頃、スタッフから誕生日プレゼントでいただいたものです。もともと錫の酒器は欲しいと思っていましたが高嶺の花。高価で手が出なかった。欲しいなあ…と、どのくらいつぶやいたのか定かじゃないですが、その思いが通じたのかな(笑)」

 それはいい作戦。心のつぶやきは時々まわりに聞こえるように発した方がいいようだ。ちょうど、燗をつける素敵な徳利が欲しいと思っていたところだ。さっそくマネしよう。どこで見かけたか失念したが鳥獣戯画の絵付けの徳利が欲しいな、欲しいな…。あ、すいません。つぶやくのはあとにします。錫のぐい飲みの話でしたね。グビグビッと飲めそうなサイズですね。

「自分の手にはちょうど収まりがいいですね。使っているうちに自然と自分の持ちやすい形状に落ち着いた感じです。一定の温度を保ったまま味わえるので、やっぱり優れた酒器だと思います。気分的に夏に使うことが多いかな。

 ほかにも誕生祝いにいただいた切子の酒器もあるんですが、立派すぎて普段使いは躊躇します。ワイングラスでお酒を飲むこともあります。ただ、これは別な意味で使うのをためらってしまう」

 そうそう。そもそも洗うときに気を使うし、よせばいいのに酔って洗いものをしてうっかり割ってしまったという経験がある人も多いはず。

「うすはり系は、ほんと怖い(笑)。家飲みでは気軽に扱える酒器がいい」と、若松さん。それ、わかります! そして、こちらの蛇の目のお猪口にも触れたほうがよさそうな雰囲気。「宝山」の銘がばっちり入っている。聞けば、若松さんが宝山酒造に就いたエピソードも興味深い。

 若松さんと宝山酒造の次期蔵元杜氏・渡邉さんは大学時代の同級生。飲み会で同席した渡邉さんに「一緒にお酒を造ろう」と言われ、なんの迷いもなく今に至るという。なんすかそれ。つきあって間もないカップルのプロポーズっすか、いやドラフト1位指名、いや電撃入籍、いや運命の赤い糸なのかと、つっこみたい衝動に駆られる。なれそめを聞いている気分に近いものがある。すでに酒器トークは脱線したが、その続きをもう少しだけ。

 大学卒業後、渡邉さんは3年間の修行を経て蔵に戻る。その間、若松さんはというと…。

「酒販店や飲食店に勤めました。同じ酒造りを学ぶのではなく、お酒を売る側や提供する側の知識を身につけようと思って。そこで経験したすべてを酒造りにフィードバックできる人材になれたら」と、当初から役割分担を踏まえて広い視点で日本酒に関わってきた若松さん。かくして、2015年夏、宝山酒造の営業職に配属となる。

 以来、営業マンとして百貨店やイベントを中心に全国を駆けまわり、お酒はもちろん、相性のいい料理や新しい楽しみ方の提案など、蔵と日本酒の魅力を伝える日々だ。酒蔵がフル稼働する冬場は酒造りにも参加する。

 若手の柔軟な発想とチャレンジ精神に加え、「小さな蔵だからこそできた」というプライベートブランドやコラボ商品はSNSなどでも注目され、日本酒になじみのない若い世代にも「宝山酒造」の名が知れ渡る。聞くほどに、若き二人のコンビ結成秘話も佳肴になっていた。さっそく今夜はひやおろしで一献。

【酒器FILE 012】 愛用者:若松秀徳(「宝山酒造」営業) *口径70mm *高さ73mm *容量170cc *重量172g
【酒器FILE 012】
愛用者:若松秀徳(「宝山酒造」営業)
*口径70mm *高さ73mm *容量170cc *重量172g

●INFORMATION

宝山酒造

宝山酒造

明治18年創業の小さな酒蔵。「人、酒、語らい」をモットーに、昔ながらの伝統的な酒造りを守り続ける一方で、若き杜氏らが中心となって醸す日本酒も話題に。この時期味わいたい「純米ひやおろし」は初の試みとして新潟酵母を使用。「昨年と比べて香りがよく、すっきりと仕上がっている」と、若松さん。旬の酒はもちろん、レギュラー商品などはオンラインショップで入手可能。

●取材協力

方舟 大吟醸 しずく

方舟 大吟醸 しずく

銀座で北陸料理と地酒が堪能できる本格会席料理店(全室個室)。日本酒は富山、福井、石川、新潟、長野の5県にこだわり、セラーの在庫は常時250種以上。「宝山酒造」の大吟醸、純米酒をはじめ、新潟県産自然栽培米山田錦を使用し「宝山酒造」が醸した方舟PB純米大吟醸「宝穂」が味わえる。

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。