わたしとガラスと錫と、みんな違ってみんないい。【酒器も肴のうち】

お酒をつぐ器、お酒を飲む器。酒器に思いを巡らせると、気になってくるのが、あの人のお気に入りやコレクション。あのお店のセレクションも見てみたくなる。酒器を愛でて一献傾けるのが好きなライターによる酒器折々、酒器こもごも。

わたしとガラスと錫と、みんな違ってみんないい。【酒器も肴のうち】
食楽web

 九谷焼の人気陶芸作家の話で盛り上がった酒器トークに続いての「酒器も肴のうち」第13献。今回も恵比寿「すし松玄」の料理長・吉野裕一さんにご登場いただき、遠慮なく酒器のおかわりを頂戴する。

酒器にも食材にも、料理人の目利きが光る。

 磁器だけでなく、土もの、ガラスものもある。筆者の個人的な嗜好だが、土ものには燗酒を注ぎたくなる。取材でお邪魔したのは夏の盛りで、涼感を醸し出すガラスの酒器に気もそぞろだ。繊細なエッジングを施したグラスは、本来リキュールグラスかコブレットなのだろうか、見るからにバーウェアの佇まい。冷酒を注ぎ入れ、施された優雅な模様が鮮明に映る様をイメージして、しばしの妄想タイム。

「使って喜んでもらえるのは嬉しいです。酒器の種類がたくさんあるのも日本酒の魅力。陶器でもガラス製のものでも、手の込んだ丹念な仕事ぶりが見える酒器でお酒を味わってもらいたい」と、吉野さん。さすがは料理人。器の目利きも食材選びと同じスタンスなのかも。

「透明感のあるガラスは光の受け方、入り方がきれいですよね。おっしゃる通り、お酒を注ぐと繊細な柄が浮き彫りになって美しさが際立ちます。銀箔の盃も品があって気に入っています。これは佐賀・鍋島の肥前びーどろ。特殊な宙吹きの技法で作られていて、確か今これを作っているのは一軒だったと思います」

 存じ上げず、恐縮であります。佐賀市の重要無形文化財にも指定されている肥前びーどろ。銀箔を施したグラスはそれだけでおめでたい気分にさせてくれる。こちら、銀彩 盃スキというもので、おっしゃる通り、「ジャッパン吹き」というとても特殊な伝統技法でつくられおり、この製法で行うのは現在一社のみだという。ならば、次はこれで一献傾けたくなる。

 さらに登場した酒器がもう一種。吉野さんいわく「宣伝するつもりはないのですが」とでも言いたげに出てきたのは錫製の酒器だ。恵比寿勤務の長かった筆者はすでに察していたので、この酒器をはずせないことはガッテン承知のすけである。

「すし松玄」は都内を中心に名古屋、福岡などで飲食店を展開し企画運営する「ピューターズ」の経営。社名のピューターは錫に由来する。となると、ここで錫製の酒器が登場しないはずがない。いや、紹介しないわけにはいかない。

「錫の酒器をお持ちの方は少数だと思いますし、実際、これで日本酒を提供すると喜ぶお客さまが圧倒的に多いです」

 確かに、陶器やガラス製のぐい呑やおちょこならなじみはあるが、錫製のカップを持っている人はそう多くないかもしれない。パッと見は金属器特有の冷たくて硬い印象だが、錫の持つ高いイオン効果により、お酒がまろやかで口当たりがよくなるとか。熱伝導がよく、夏場に飲む冷酒のひやっこい感覚は持ったときに心地よい。すとんとした重量感もいつしか手になじんでくる。冷酒は涼やかさを保ち、燗は早くつくという。燗酒で試したことはまだないが、この次はこれで一献傾けよう。前回に続いていったい何献傾けるつもりなのかとお思いでしょうが、さらに酒器のおかわりは続いた。

「昨年の夏のものすごく暑い日に、茶道具やさんの前を通りかかって、ガラス越しに見つけた京焼の片口です。ストレートに視覚に訴える夏の色彩ですが、酒器で季節を感じながら日本酒を味わってもらえれば。というか、それに気づいてくれると嬉しいです」

 それはとても涼しげなトルコブルーの深めの片口だった。金彩で施したものは清流に遊ぶ鮎のイメージだろうか。来夏はこの片口で……。

●DATA

すし松玄

『すし松玄』
定番の一品料理から、その日に仕入れた最高のネタを活かした料理が堪能できる「本日のおまかせコース」8,000円~(税別)など、使い勝手の幅が広い寿司居酒屋。松茸の土瓶蒸しなど、秋の味覚がぎゅっとつまった料理が登場するのも待ち遠しい。日本酒は定番、季節のものなど常時16種前後。9月26日には恵比寿本店、六本木店に次いで3店舗目となる寿司店「松栄」が恵比寿駅東口にオープンする。詳細はこちらから。

●SHOP INFO

住:東京都渋谷区恵比寿南2-3-13 山燃ビル2F
TEL:03-6452-2400
営:17:00~23:00
休:日曜・祝日

●著者プロフィール

取材・文/笹森ゆうみ

ライター。蕎麦が好きで蕎麦屋に通っているうちに日本酒に目覚め、同時にそば猪口と酒器の魅力にとりつかれる。お酒、茶道、着物、手仕事、現代アートなど、趣味と暮らしに特化したコンテンツを得意とする。