ワインのような日本酒「afs」を造る千葉の「木戸泉酒造」とは?【古酒店主の蔵元探訪】

「afs」はどう造られるのか? いざ木戸泉酒造へ

 日本の渚百選にも選ばれている千葉県の九十九里浜をしばらく南下すると、伊勢海老の水揚げ量日本一の大原漁港にたどり着く。漁港から車で5分ほどの場所に「木戸泉酒造」はある

門前に掲げられている立派な杉玉「酒林」は毎年11月頃に有志を募って作られるそう。直径2m近くある杉玉は圧巻
門前に掲げられている立派な杉玉「酒林」は毎年11月頃に有志を募って作られるそう。直径2m近くある杉玉は圧巻

 風情ある建物の中にお招きいただき、色々とお話をうかがった。

 そもそもなぜ、酒の名前が「afs」なのか?

 本来、加熱処理され瓶詰された酒は腐ることはない。しかし、造る過程においては不要な菌が入ってくると、腐ることがある。これを「腐造」というのだが、酒蔵にとっては、原材料の米が駄目になるわ、売る酒がなくなるわ、と経営危機に直結する一大事。これを防止するため、かつて多くの酒蔵が防腐剤などの添加物を使用していたが、やがて健康への配慮から昭和40年の中頃には防腐剤は使われなくなった。木戸泉酒造では「消費者の事を考え、昭和31年にはいち早く使用を止めた」とのこと。

 とはいえ、酒を腐らせるわけにはいかない。そこで試行錯誤しながら、酒造りに必要不可欠な乳酸菌に気持ちよく仕事ができる環境を整えてやることで添加物を必要としない、「高温山廃もと」と言われる製法を、安達氏、古川氏、荘司氏の3人により確立した。この製法を用いることで酸のしっかりとした重厚な酒になったのだ。
 ちなみに、3人のこの頭文字をとって「afs」の名がついたのだそう。

 つまり、飲み手のことを考えていたらこうなった。
 そして、それを今も守り続け全ての酒造りに生かされている。つまり、afsは木戸泉酒造の酒造りのハートなのである。

 afsの製法についてお話頂いた時も
「高温山廃もとは、人の手で直接温度を感じながら菌の活動や米の具合を見ながら混ぜています。だから、毎年、酸や旨みが違いその年その年の味わいの酒ができる」と語る荘司社長の顔には満面の笑みが浮かんでいた。

「酒は造り手の性格がでる。」と言われることがあるが、魂を込めて作られた酒はそれ以上の生き写しではないかと感じる。私が木戸泉の酒を初めて飲んだ時に感じたものは謹厳実直、“あ~、真面目なお酒だな”と。味わいこそ独特で斬新、奇をてらったようにも思えるが、落ちついた芯がある酒なのだ。

 そんな木戸泉のお酒を見かけたらぜひ試してほしい。

原料米に、自社栽培の自然農法産米(無農薬・無化学肥料)を使う取り組みにも飲む人や環境への思いやりが感じられる。(※一部商品に使用)
原料米に、自社栽培の自然農法産米(無農薬・無化学肥料)を使う取り組みにも飲む人や環境への思いやりが感じられる。(※一部商品に使用)

●DATA

店名:木戸泉酒造

住:千葉県いすみ市大原7635-1
TEL:0470-62-0013(来場の前には電話を)
営:8:00~17:00
休:土日祝
※蔵内販売所では、お酒の販売、試飲もできる
※蔵見学は人手が確保でき次第行うとのこと。現在は中止
http://www.kidoizumi.jp/

●著者プロフィール

薬師大幸

「いにしえ酒店」店主。著者の家系に酒飲みが居たという話は聞いたことが無く、本人も生ビール中ジョッキなら2杯、日本酒であれば2合が限界。量は飲めないが酒は好き。酒好きの下戸(げこ)が「2合」をいかに楽しむかとたどり着いたのがゆっくり楽しめる日本酒の古酒・熟成酒だった。日本酒ブームと言われる中でも熟成酒はマイノリティーなジャンル。少しでも多くの人にこの魅力を感じてもらうため、2016年11月に杉並区方南町に「日本酒の古酒・熟成酒専門の酒屋 いにしえ酒店」をオープン。