酒々井の老舗酒造発、古民家ギャラリーを訪ねて。【房総food記】

地元の水と自社栽培の酒米で、酒々井の地酒を醸す。

酒々井の老舗酒造発、古民家ギャラリーを訪ねて。【房総food記04】
地酒「甲子正宗」に初めてトライするなら純米吟醸酒がおすすめ。冷酒または人肌程度に温めて飲むのがいい。写真の1.8L(2,500円)、720ML(1,300円)のほかに300ML(534円)もあり、3サイズ展開。12星座がデザインされたワンカップ180ML(257円)も愛らしい(写真は蟹座)。

「飯沼本家」の酒造りの歴史は、300年以上前の江戸時代にさかのぼります。代々、この地の庄屋をつとめていた飯沼家。村の取りまとめ役として、年貢米を集めて領主に納める役割を担っていました。当時、酒々井は佐倉藩の領地でしたが、年貢米の余剰でお神酒を造るように命じられたことから、酒造りを始めることになります。

 ところで、酒々井は昔から水が豊富な土地。町内の水道は今もほぼ地下水(一部は印旛広域水道)を使用しているといいますから、水質の良さが察せられます。しかもその水は、町役場等で販売されているほどなので、味わってみたい方はぜひ。もちろん、「飯沼本家」の酒もこの恵まれた地下水で造られています。水質は「中硬水」と呼ばれる少し硬めの水で、本来の持ち味のまま酒造りに用いると、淡麗辛口の酒に仕上がるそうです。

「飯沼本家」では、10代目の飯沼治右衛門(じえもん)さんが酒造りを家業として確立。それまではお茶の栽培や養蚕、山林事業など、庄屋として様々な商売をしており、現在古民家が建つ場所にはもともと養蚕小屋があったといいます。

 12代目の喜一郎さんの代には、商品名を、自身の生まれ年に由来する「甲子正宗」に統一。さらに、現当主(15代目)の飯沼喜市郎さんが数年前に自社農園「きのえね農園」を設立し、自分たちで酒米づくりも始めました。

 現在は、社員が一丸となり、酒々井の水と酒米を使った酒造りをしています。「ここで米作りをすることが、酒々井の里山を守ることにつながり、ひいては水を守ることに繋がるんです」。土地の水は、地酒造りの命。その重さが伝わってきます。

 また、15代目になってから、酒蔵見学をはじめ、ギャラリーやカフェ、田植え・稲刈り体験、春と秋には大試飲会を行うなど、滞在型観光にも力を入れています。毎年7月には、「きのえね農園」で、新鮮なブルーベリー摘み体験も実施。「お酒を中心に、もっと人が集まる場所にしていけたら」。

 歴史ある造り酒屋の“たくらみ”は、これからも味わい甲斐がありそうです。

酒々井の老舗酒造発、古民家ギャラリーを訪ねて。【房総food記04】
ギャラリーがある古民家「酒蔵カフェ 酒々井まがり家」には、毎年、新酒ができあがる11月になると、青々とした新しい杉玉が掲げられる。「ご近所の皆さんが集まって手作りしてくれるんです」と、現当主夫人の幹子さん。
酒々井の老舗酒造発、古民家ギャラリーを訪ねて。【房総food記04】
敷地の中で一番新しい仕込み蔵「北総蔵」の1階には、「飯沼本家」の商品や歴史を紹介するスペースがある。酒蔵見学もここから開始。
酒々井の老舗酒造発、古民家ギャラリーを訪ねて。【房総food記04】
酒蔵のシンボル的存在の大煙突。“煙突の長さ=酒蔵の格”とされていた時代があり、昔は今の倍以上の高さを誇ったとか(写真は、昭和になってから建て替えられたコンクリート製。その前は煉瓦造りの煙突だった)
酒々井の老舗酒造発、古民家ギャラリーを訪ねて。【房総food記04】
かつて存在した煉瓦造りの大煙突は、かなりの高さがあったため、倒壊を防ぐ意味で写真のような「支柱」と紐でつながれ固定されていたという。今も敷地内には当時の「支柱」が遺構として残る。
酒々井の老舗酒造発、古民家ギャラリーを訪ねて。【房総food記04】
7月からは隣接する「きのえね農園」にてブルーベリー摘み体験も開始。こちらもあわせて楽しみたい。

●SHOP INFO

店名:「酒蔵カフェ 酒々井まがり家」

住:千葉県印旛郡酒々井町馬橋106 飯沼本家内
TEL:043-496-1001
営:ギャラリー、物販コーナー:10:00~18:00(ギャラリーのみ企画展最終日は15:00まで)
レストラン:10:00~17:30(16:40L.O.)
休:月曜(祝日の場合は営業、翌日の火曜日)&年末年始
駐車場30台(大型バス可)
カード使用可
東関東自動車道・佐倉ICより約10分、
JR総武本線・南酒々井駅から徒歩10分
http://www.iinumahonke.co.jp/
※酒蔵見学は1名500円(見学+4種類のお酒の試飲+ぐい呑1個付き)。1日1回13:30から実施。要予約。

●著者プロフィール

白井いち恵

千葉市育ち&在住の編集者・ライター。『千葉の本』『千葉の本2』(京阪神エルマガジン社)を手がけ、出身地・千葉県の知られざるおいしい&楽しいを大特集した。路線バス好きでもあり、著書に『東京バス散歩』(同上)。