05話【コーヒープレス古今東西】サードウェーブを自宅でとことん楽しむならば【1】

05話【コーヒープレス古今東西】サードウェーブを自宅でとことん楽しむならば【1】
食楽web

挽いた豆にお湯を注ぎ、時間が来たらレバーを押し下げる。そんな簡単ステップで珈琲豆の味わいが堪能できるコーヒープレス。家事の合間に、仕事の休憩に。初心者からプロまで使えるうえに、手間いらずで実用的。なのになぜか、知名度は今ひとつ。使えばきっと好きになる、愛すべきコーヒープレスの魅力をご紹介します。

 ここ数年、空前のサードウェーブ・コーヒーブームだった東京。日本初上陸の有名店に行列ができる現象は落ち着いたが、自宅でコーヒーを飲む時に豆から挽いてドリップするようになった、という声は確実に増えている感覚がある。

 昔のコーヒーは、生産国の違いこそあれ、現地の様々な農園の豆を集めてブレンドし、出荷する手法が主。極端に言えば、丁寧に作られようと雑に作られようと、豆を混ぜて均一化してしまうのだ。しかしサードウェーブの考え方のベースは、豆の持つ個性にもっと注目すること。だから品種はもちろん、農園の栽培方法でも変わる豆の風味をしっかりと楽しむため、ブレンドしない単一種の豆「シングルオリジン」を重んじる。ワインのようにコーヒーを選ぶムーブメント、と表現されるのも納得がいく。

 さて、お伝えしたかったのは、この「豆の個性を楽しみましょう」という流れにとても相性がいいのがコーヒープレスだ、ということ。コーヒーの品質を評価するときにバイヤーが行う「カッピング」は、容器に決まった量のお湯と豆を入れて、一定時間抽出する「浸漬法(しんしほう)」という手法。淹れる技術や条件の違いによるブレが少なく、豆に含まれた油分の中にある旨みをダイレクトに味わえるのがその理由だが、これはコーヒープレスの淹れ方と同じなのだ。

 もちろん、ドリップ式がいけないわけではない。ペーパーが油分や雑味を吸収することで生まれる透明感や、淹れるプロセスを楽しむ喜びはドリップならではのものだ。上達すれば湯量などの調節で味わいを変えることだってできる。ただ、コーヒーに興味を持ったばかりの初心者や、私のように雑なタイプの人間が安定した味を引き出せるか、と言えば必ずしもそうではない。もしシングルオリジンに興味を持ったばかりなら、豆の特性をしっかり感じ取れるコーヒープレスで飲んでみる。そうするうち自分の好みを知り、求める品種や生産者とも出会いやすくなるように思える。

 ドリップとプレス、それぞれで淹れて味を比較するのも面白いし、急いでいるときはプレス、じっくり淹れるときはドリップ、とすみ分けてもいい。なにしろ、様々な豆が手に入りやすくなったこのムーブメントをありがたく、存分に楽しみたい。

●著者プロフィール

写真・文/木内アキ

北海道出身、東京在住。”オンナが楽しく暮らすこと”をテーマに、雑紙や書籍、ウェブなどで人・旅・暮らしにフォーカスした文章を執筆。プレスコーヒー歴7年。目標は「きちんとした自由人」。執筆活動の傍ら、夫と共に少数民族の手仕事雑貨を扱うアトリエショップ『ノマディックラフト』を運営中。
HP: http://take-root.jp/