「山田家」のたぬきの人形焼(錦糸町)【2】【第2回 小みやげネタ帖】

差し入れ以上、贈り物未満、アンダー1,500円のささやかな手みやげを“小みやげ(こみやげ)”と勝手に命名。気の置けない友人に、ちょっとしたお礼に。おいしくて財布に優しいうえに、もらった側もお返しいらずの気楽なアイテム。関西出身ライターが日常遣いする、テッパンの東京みやげをご紹介します。

包装にもエピソード満載、
街に愛される“スーパーたぬき”

たぬきは1個108円、12個箱入り1,453円(箱代込)。数年前、材料の高騰で26年ぶりに値上げに踏み切ったが、以前は80円だったとか。素晴らしき企業努力かな。
たぬきは1個108円、12個箱入り1,453円(箱代込)。数年前、材料の高騰で26年ぶりに値上げに踏み切ったが、以前は80円だったとか。素晴らしき企業努力かな。 | 食楽web

 前回に続き、錦糸町が誇るたぬきの人形焼のお話である。目を引くのが緑色の包装紙だ。たぬきが登場する『おいてけぼり』など、江戸時代から墨田区界隈に伝わる民話『本所七不思議』がユーモアたっぷりに描かれている。

「錦糸町名物にするべく、父が創業時に江戸文化研究家でもある漫画家の宮尾しげを先生にイラストを依頼したそうです」と2代目の山田 昇社長。30年前から包装紙にこだわるとは、高いブランディング力に脱帽。初代は先見の明のある人だったそうだ。包装紙を別に欲しがる人やブックカバーにする人など、ファンも多いそうな。ファニーなたぬきに負けないゆるっと脱力系の包装エピソードも送る時に伝えたい。

 さて、店奥の工場から漂ってくる甘い香りを胸いっぱいに嗅げるのは、買いに来た者の特権だ。午前9時の開店に合わせて朝6時半から工場はフル稼働、年末年始には1日1,600個の人形焼が旅立ってゆく。

 包装を待つ間にも常連客がひっきりなしに訪れ、おやつに小みやげに、ご進物にサラリーマンの営業ツールにと大人気。保存料も添加物も入っていないから子供がいる家庭にも喜ばれる。下町・錦糸町が生んだ“旨い、大きい、安い”人形焼は、ちびっ子からお年寄りまで幅広く喜ばれる、頼もしい“小みやげのエース”なのである。

 最後に、オススメの食べ方を社長に聞いてみた。「お好みですが、2日目が生地と餡が馴染んで個人的にはベスト」とのこと。素揚げや衣を薄く付けて“揚げだぬき”にしたり、温めてバターやアイスをのっけたりと、楽しみ方は無限大。ラップで包んで冷凍しておけば重宝する。いつだって頼もしい、錦糸町のスーパーたぬきなのだ。

「ねぇ、『おいてけ堀』っていう怪談、知ってる……?」なんて話しながら渡すのも、楽しいかもしれない。
「ねぇ、『おいてけ堀』っていう怪談、知ってる……?」なんて話しながら渡すのも、楽しいかもしれない。
作家の宮部みゆき氏も御用達。包装をヒントに『本所深川ふしぎ草紙』を創作、直木賞受賞の折も利用したそう。
作家の宮部みゆき氏も御用達。包装をヒントに『本所深川ふしぎ草紙』を創作、直木賞受賞の折も利用したそう。
ベテランの販売スタッフさんがてきぱきと接客する姿も気持ちよい。1個からでも快く応対してくれる。
ベテランの販売スタッフさんがてきぱきと接客する姿も気持ちよい。1個からでも快く応対してくれる。

●SHOP INFO

店名:山田家

住:東京都墨田区江東橋3-8-11
TEL:03-3634-5599
営:9:00~20:00
休:元日
日持ち:4日
地方発送:可
ほかに購入できる店:錦糸町テルミナ店、江戸東京博物館 ミュージアムショップ、東京スカイツリータウン・ソラマチ 産業観光プラザ すみだ まち処
http://yamada8.com

●著者プロフィール

森本亮子

編集・ライター。『東京の手みやげ』(京阪神エルマガジン社)など、手みやげ関連のムック・書籍や雑誌企画を多く手がける。レストランや酒場、肉などの食をメインに、おいしいものと街と人をこよなく愛する関西人。錦糸町在住。