「コロッケそば」は高級料理だった!?銀座でそのルーツを味わってきた!

「元祖コロッケそば」のコロッケの正体は?

コロッケそば1,050円。
コロッケそば1,050円。

 早速、名物「コロッケそば」をいただいてみよう。コロッケは、王将のようにどーんと真ん中に君臨し、脇を歩兵のように長ネギが固める。“立ち食いそば”経験から、「コロッケがドロリと崩れ落ちる」イメージを持ってすくい上げると、何のことはない。全く型崩れなどせず、しっかり箸で持ち上がる。おつゆがしみたって、グダグダになることなんてない頑丈ぶりなのだ。

 ここで誰もが思うだろう。「これ、コロッケか?」と。だが、決して、この段階で「あの~、私、コロッケそばを頼んだんですけど~」と、店の人を呼んではいけない。周囲のお客さんから「あなたって人は」という目で見られる。「でも……」などと思っても、シーッ、静かに。先に進もう、いや、すすろう。

 石臼で挽いたという蕎麦は香り高く、また、カツオと昆布で丁寧に出した優しいおつゆは贅沢な味わい。そしてコロッケ(っぽいもの)は、衣はまとっておらず、唇に当てると、じつはふんわりとやわらかく、噛めばお出汁を吸い込んでいて、鶏のつくね(!?)のようにしみじみとした和風のお味。これらが渾然一体となって上品さを醸し出しているのだ。立ち食いそば屋の「コロッケそば」の、“のらりくらり感”に比べると、1つ1つに“やる気”がみなぎる。

 しか~し! さっき感じたコロッケの疑惑。いわゆるジャガイモとパン粉で揚げた“コロッケ”と少々違う理由だけは、やはり解明しておかなければならない。そこで、おかみさんに思い切ってお話を伺うことにした。

 銀座マダムのような上品な三代目のおかみさん・矢島一代さん。優しい笑顔で、あっさりと、「この“コロッケ”は、ジャガイモも牛肉も、パン粉も使っていませんの。鶏肉のミンチと山芋を合わせ、特製のお玉を使って揚げているんですよ。“築地鳥広”さんのとっても新鮮な鶏肉を使わせていただいています」と。

 おおっと!それはコロッケではなく、“鶏しんじょ”なのでは!? と思わず口に出そうになった。だが微笑む一代さんを前に、すんでのところで押しとどまった。これはよくよくの事情があるに違いない。そこで、「コロッケ(と言い張る)事情」をもう少し、突っ込んで聞くことにした。

おかみさんの矢島一代さん。
おかみさんの矢島一代さん。