東京レモンサワー物語|レモンサワーはいかにして生まれたか?

鳥料理 それがし
食楽web

酸味と炭酸の爽快感がたまらないレモンサワー。普段何気なく飲んでいるかもしれないが、その奥深さと、本当に美味しい味わい方をご存知だろうか?

レモンや製法にこだわる進化系レモンサワーも続々登場し、その人気に拍車がかかるレモンサワーに注目!

レモンサワーが誕生したのは戦後すぐ、まだ肉が庶民の口に入らなかった時代。

もつ焼きを食べさせる店が発祥だ。誕生秘話と、どういった料理と合わせて楽しまれてきたのか、まずはその歴史を追ってみよう。

話をお伺いした人

ばん店主・小杉潔さん

ばん店主・小杉潔さん

実兄が営んでいた「ばん」を引き継ぐ。ゆるやかな物腰で、客を温かく迎え入れる何とも素敵な御人。

レモンサワ ーは、もともと麻雀店の人気ドリンクだった!?

 レモンサワーを生み出した元祖の店は、もつ焼きがメインの大衆居酒屋「ばん」(東京都目黒区)である。

「レモンサワーがいつ生まれたか定かじゃないけれど、うちの前の店の時にはもう飲まれていたみたいだよ」と語る店主の小杉潔さん。

「ばん」が創業したのは57年前。それ以前は麻雀店を営んでいた。客たちが麻雀を打ちながら飲んでいたのが焼酎の炭酸割り(当時は”チュータン“や”焼酎ハイボール“と呼んでいた)。

 どうやら誰かがそこに、レモンを搾って入れたらしい。

 麻雀で煮詰まった頭を爽快にしてくれる効果があったかどうかは不明だが、その飲み方が自然に広まったようだ。その後、商売替えをして、「ばん」の開業時にメニューに据えたところ、これが評判を呼ぶことに。当時レモンは輸入され始めたばかりで、そのハイカラ感も相まって、たちまち名物ドリンクになった。

レモンサワー
金宮焼酎がたっぷり入ったジョッキと炭酸水のセットが「サワー」300円。レモンは1個100円也。

 「もつ焼きに合う味だったという点も、レモンサワーが人気になった理由だよね。当時まだ戦後から10年くらいしか経っていなくて、肉なんて手に入らなかったから、庶民はもつを食べるしかなかった。ほら、もつは味も脂気も強いでしょ。だから、口の中をさっぱりとさせてくれるレモンサワーがぴったりだったんだよね」(小杉さん)

 同店で人気を博したレモンサワーは、他のもつ焼き屋などを中心に広まっていき、あっという間に全国区となった。ちなみに博水社という飲料会社が作る焼酎割り用飲料「ハイサワー レモン」(”割るならハイサワー♪“のCMでお馴染み)は、「ばん」の味をベースに生み出された。約35年前、当時の博水社の社長が「ばん」の常連だったという経緯があるそうだ。

“サワー”のネーミングは“さわやか”が語源

 ところで”レモンサワー“というネーミングはどうやって付いたのか。レモンは果実名だから分かるが、”サワー“っていったい何?

「たぶん、”さわやか“を語源にしてサワーになったようだね。うちの兄貴が『ばん』を開業するときに考え出したんじゃないかな。”さわやかサワー“が当時の流行りのキャッチフレーズだったよ(笑)」

 さて、そのさわやかサワー。今回話を伺う前(会った途端)に、「はい、飲んで」と目の前に置かれたジョッキには、なんと半分以上も焼酎が入っている。それが通常らしい。脇には炭酸水と、半分に切ったレモン1個&搾り器が添えられる。周りを真似て作ってみたそれは、最初は少しアルコール感が強いものの、何ともパンチの効いた、まさしく爽快な美味しさだった。レモンも炭酸も余分にあったから、”ナカ“(焼酎)を頼み、2杯目も十分楽しんだが、追加250円という廉価である。

「レモンサワーにこれを合わせて食べなきゃ嘘だよ!」と出されたのが、かしら、しろ(大腸)、がつ(胃袋)などのもつ焼き、豚の尾を柔らかく煮込んだ”とんび“、コクのある味噌味のもつ煮込み。ザ・昭和のラインナップながら、どれも実に味わい深く、箸が止まらないほど旨い。もつをしっかり噛んでいると、次第に濃厚な旨みや脂が口中を占めるが、そこにレモンサワーを一気に流し込む幸せと言ったらもう! だから皆、ここに通ってしまうのだと納得。

 戦後まもなくの時代背景があって生み出されたレモンサワーだが、大衆酒の世界ではエポックメイキングだったと言えるだろう。だって今でも私たちの身近な存在であり続けるのだから。「ばん」の元祖レモンサワーを味わって、そんなノスタルジックな気分に浸りたい。

●SHOP INFO

ばん

店名:ばん

住:東京都目黒区祐天寺2-8-17
TEL:03-3792-3021
営:16:00~23:00、土曜15:00~23:00、日曜15:00~22:00
休:不定休
予算/2,000円~ 個室/なし カード/不可

(撮影◎大西尚明、鵜澤昭彦、瀧澤晃一 取材◎小林安菜子)